【空き家特例】相続した家の売却時に使える3000万円特別控除とは?

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

【執筆者:税理士・藤井幹久】

不動産を売却した際に適用できる3,000万円控除は2種類あります。

一般的に知られているのは、所有者が住んでいた不動産を売却する際に適用できる3,000万円控除です。
詳しくは「マイホームを売却した時の居住用3,000万円控除の特例」についての記事で解説しております。

もう一つの3,000万円控除である通称「空き家特例」は、相続により取得した住宅に対して適用できる特例で、相続後空き家となっていることが要件です。

本記事では、相続時に空き家となった際に適用できる、空き家特例の要件と適用する際の手続き方法を解説します。

相続時の空き家3,000万円控除とは

空き家特例は、亡くなった人が生前自宅として利用していた住宅を相続し、その住宅を売却した際に適用できる特例です。

売却利益3,000万円まで控除できる特例なので、数百万円の譲渡所得税を節税できる効果があります。
土地・建物を複数の相続人が共有で相続して売却した場合には、その相続人ごとに特別控除額を控除することができますが、相続人の人数により特別控除額が変わります。
相続人が3人以上の場合には、各人別の特別控除額は、「2,000万円」なる点にご注意ください。

相続時の空き家3,000万円控除の適用要件

空き家特例を適用するためには、次にご説明する要件をすべて満たさなければなりません。

空き家特例は期間限定の制度

空き家特例は期間限定の特例制度であり、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に売却した不動産が対象です。
平成28年3月31日以前に売却した不動産には、空き家特例は適用できません。

時限立法の制度ですので特例適用期間の延長がされるかを確認してください。

相続した家屋の建築年数が浅いと特例は適用できない

空き家特例を適用できるのは古い物件に限られ、相続した家屋の建築年数が浅いと、特例は受けられません。

またマンションなど、次の事項に該当しない家屋は特例の対象外となります。

相続家屋の要件

  • 建築が昭和56年5月31日以前
  • 建物が区分所有建物登記(マンション)ではない
  • 相続開始の直前に亡くなった人以外に居住者がいない

なお相続が発生したことで空き家になることが要件となるため、前所有者が亡くなる前に別の不動産に移住した場合も、空き家特例の対象外となります。

空き家を売却する際の適用要件

売却する人の要件

空き家特例の適用は、亡くなった人の住宅を取得した人が売却した場合に限られます。
そのため相続取得後に住宅を贈与し、受贈者がその住宅を売却するケースでは特例を受けることはできません。

相続から売却するまでの期限

空き家特例を適用できる期間は、相続開始日の翌日から3年を経過する日の属する年の12月31日までです。

たとえば令和2年7月10日に亡くなった人が所有していた不動産を相続し、その物件に空き家特例を適用させるためには、令和5年12月31日までに売却する必要があります。

売却金額の上限

空き家特例は、売却金額が1億円以下でないと適用できません。
1億円の上限は、相続開始日の翌日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却された金額の合計です。

また他の相続人が同一不動産を売却している際は、その売却金額も合計して算出します。

相続した建物ごと売却する場合

相続した土地・建物または、建物のみを売却する際は、こちらの要件を満たす必要があります。

  • 相続の時から売却までの期間、建物を事業用・貸付用・居住用として使用していない
  • 売却時において建物が一定の耐震基準を満たしていること

一定の耐震基準を満たした建物とは、耐震基準適合証明書または建設住宅性能評価書の写しによって、耐震基準に適合していることが確認できている建物をいい、
売却日前2年以内に証明のための調査が終了したもの(評価されたもの)に限られます。

建物を取り壊して土地のみを売却する場合

相続した土地・建物のうち、建物を取り壊し土地のみを売却する場合、次の3つの要件に該当する必要があります。
以前は、取り壊しを譲渡の時までに行わなければなりませんでしたが、令和6年1月1日以後の譲渡については、譲渡年の翌年2月15日までの取り壊しを行えば良いと要件が緩和されております。

  • 相続の時から建物取壊しまで期間に、事業用・貸付用・居住用として使用していないこと
  • 相続の時から売却までの期間、事業用・貸付用・居住用として使用していないこと
  • 建物取壊しから売却時点までの期間、売却する土地を建物または構築物の敷地として使用していないこと

相続開始以降に、土地を何かしらの用途に使用した際は、空き家特例を受けられなくなりますので注意しましょう。

他の譲渡所得の特例制度との併用適用

譲渡所得の特例制度は多数存在しますが、空き家特例を適用する場合、次に掲げる特例を受けることはできません。

【空き家特例と併用して適用できない主な譲渡所得の特例】

  • 交換特例(所法58条)
  • 収用特例(措法第33条から第33条の4まで)
  • 事業用特例等(第37条、第37条の4、第37条の8、第37条の9)
  • 相続税の取得費加算の特例(第39条)

空き家特例の適用回数

同一の被相続人(亡くなった人)から相続した不動産に対し、すでに空き家特例を適用している場合、再度特例を適用することはできません。

空き家不動産の売却先

不動産を親子や夫婦など、特別関係者の間で売却する際は、空き家特例を適用できません。

【特別関係者に該当する主な人(法人)】

  • 配偶者および直系血族(両親、子、孫など)
  • 生計を一にする親族
  • 対象不動産を譲渡後に譲渡人と同居する親族
  • 内縁関係者と、その親族で生計を一にする人
  • 同族法人

老人ホームに入居していた場合の要件

相続が開始する前に住んでいた被相続人が退去し空き家となった場合でも、転居先が老人ホームだった際は、空き家特例を受けられる可能性があります。

【老人ホーム等へ入居した際の要件】

  • 亡くなった人が介護保険法に規定する要介護認定等を受けて老人ホーム等へ入居し、相続開始直前まで老人ホーム等に住んでいたこと
  • 老人ホーム等へ入居してから相続が発生するまでの期間、貸付けや他の親族などの居住用として使用していないこと
  • など

他の特例制度と空き家特例を併用する場合の注意点

相続により取得した不動産を売却した場合、「相続財産譲渡時の取得費加算の特例」を適用することが可能です。
取得費加算の特例とは、不動産を相続する際に支払った相続税を譲渡所得の取得費に加算できる制度です。

しかし空き家特例と取得費加算の特例は併用して適用できないため、どちらかを選択する必要があります。

また同じ年に自宅と相続した空き家を売却した場合、それぞれの3,000万円控除を適用することは可能ですが、控除額の上限は合計で3,000万円です。

なお自宅を売却した際の3,000万円控除と、住宅ローン控除の併用適用はできませんが、空き家特例と住宅ローン控除の併用適用は認められています。

【事例】相続時の空き家3,000万円控除の税金シミュレーション

不動産を売却した際、空き家特例を適用した場合にどのくらい節税効果があるのか、事例を通じて解説します。

【譲渡内容】

  • 売却金額 5,000万円
  • 取得費 1,500万円
  • 譲渡費用 100万円
  • 所有期間 40年

※相続取得の場合、前所有者の所有期間を引き継ぎます。

空き家特例を適用しない場合

5,000万円-(1,500万円+100万円)=3,400万円(譲渡所得金額)
3,400万円×20.315%(※)=690万7,100円(譲渡所得税)
※所有期間が5年を超える場合、長期譲渡所得に該当します。

空き家特例を適用した場合

5,000万円-(1,500万円+100万円)-3,000万円=400万円(譲渡所得金額)
400万円×20.315%=81万2,600円(譲渡所得税)

空き家特例適用による節税効果

690万7,100円-81万2,600円=609万4,500円

相続時の空き家3,000万円控除の適用を受けるための手続きは?

空き家特例を適用する場合、不動産を売却した年分の所得税の確定申告書を提出しなければなりません。
確定申告は翌年2月16日から3月15日の期間中に行う必要があり、期限内に申告しないと特例を受けられない恐れがあります。

また確定申告書を提出する際は、以下の書類も用意してください。

空き家特例を適用する際の主な必要書類

  • 売却不動産の登記事項証明書
  • 被相続人居住用家屋等確認書※
  • 売却不動産の売買契約書の写し
  • 耐震基準適合証明書または建設住宅性能評価書の写し(建物がある状態で売却した場合に限る)

※確定申告に先だって、空き家の所在する市区町村で空き家の確認書を発行してもらい、申告書に添付する必要があります。

なお譲渡所得の計算に際して、売却不動産の購入時の契約書や、譲渡費用が確認できる仲介手数料の領収書なども必要です。
売却利益が3,000万円を超える場合、必要となった経費の金額によって譲渡所得税の金額が決まるため、支払った譲渡費用の領収書などは、捨てずに保管してください。

譲渡所得の空き家特例のまとめ

相続した空き家を売却する際は、最初に空き家特例の適用要件を確認するのではなく、不動産の売却利益が発生しているかを確認してください。
売却利益が発生しなければ、空き家特例を適用しなくても譲渡所得税を納める必要はありません。

また空き家特例が適用できる期間は限られており、相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却しないと特例は受けられないため、相続財産の分割を速やかに終える必要があります。
そして空き家特例は適用するための要件は多く、添付しなければいけない書類もいくつもありますのでご注意ください。

特例適用の判断が難しい場合は税理士に相談すること

空き家特例は3,000万円までの利益を控除できるため、適用した際の節税効果は高いです。

一方で、手続き誤りや添付書類の不備により、特例を適用できなかった場合、数百万円単位の税金を多く納めることになりかねません。

なお譲渡所得税は特殊な税金のため、空き家特例を適用した申告書の作成経験が無い税理士もいます。
確実に空き家特例を適用するには、不動産の譲渡所得など資産税を専門としている税理士へ相談し、申告手続きすることをオススメします。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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