相続財産調査とは?調査方法や費用相場・依頼方法を解説!

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相続が発生した時に、「相続人の特定」と並び、必ず行わなければならないのが「相続財産調査」です。誰が相続人となるのかを明らかにする「相続人の特定」に対し、「相続財産調査」とは、相続財産にはどのような財産があるのかを明らかにし、それらを評価することをいいます。相続を順調に進めていくために必要な相続財産調査について、今回は解説していきます。

相続財産調査とは

それではまず、相続財産調査について簡単にまとめてみましょう。

相続財産調査って何?

相続財産調査とは、「相続財産の特定」と「特定した相続財産の評価」の2つを指します。

亡くなった方が、財産のすべてをひとつも漏らすことなく書き残しておいてくれれば簡単なのですが、残念ながらそのようなケースはほとんどありません。遺言書が残されている場合ですら、相続財産が漏れていることもあるほどです。

また特定した相続財産の中には、不動産や非上場株式のようにその価値を評価しなければならないものがあります。このような財産評価を行わなければ、相続税の申告をすることができません。

このように、相続財産を「特定」して「評価」することを相続財産調査といいます。

関連記事:相続財産とは?相続税がかかる財産とかからない財産を税理士が解説

相続財産調査でできること

次に、相続財産調査で何ができるのかを考えてみましょう。

相続できる財産の内容を知ることができる

相続財産調査を行うと、相続できる財産の内容を正確に知ることができます。内容がはっきりと分かることにより、誰がどの財産を相続するのかを話し合うことができます。

また、相続財産調査によって、想定外の負債を発見することができる場合があります。負債の金額次第では、相続財産を単純承認するのか、あるいは限定承認や相続放棄などをするのかを選択しなければなりません。

このような判断をするためには、相続財産調査を行わなければなりません。

相続財産の価値を評価できる

相続財産の中には、現金や預貯金のようにその価値がすぐにわかるものばかりでなく、土地や建物などの不動産や非上場企業の株式、また美術品などのように評価しなければその価値がいったいいくらなのかがまったく分からないものが含まれている場合があります。

相続財産を均等に分けるためには、こういった財産を正しく評価しなければなりません。

またそれ以外にも、借地権のように目に見えない権利自体が相続財産として評価されることもあります。

相続財産調査にかかる期間について

相続財産調査は、相続する財産の内容などによって必要とする期間はことなりますが、おおむね1~2ヶ月程度で済ませなければなりません。なぜなら相続に関するさまざまな手続きには、その期間が決められているからです。

限定承認や相続放棄は3ヶ月以内

相続財産を限定承認や相続放棄する場合には、相続の開始を知った日(≒被相続人が亡くなった日)から3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きを行わなければなりません。

相続財産調査が3ヶ月以上かかってしまっては、こういった手続きに間に合わなくなってしまいます。

準確定申告は4ヶ月以内

被相続人が生前個人事業を行っていた場合、その確定申告(準確定申告といいます)を亡くなってから4ヶ月以内に行わなければなりません。相続財産調査が完了しなければ、基本的に4ヶ月以内に準確定申告を行うことができません。

ちなみに相続税の申告は、被相続人が亡くなった日の翌日から10ヶ月以内に済ませなければなりません。

このように相続に関する手続きにはさまざまな期限があり、最も早く訪れる期限が相続放棄などの3ヶ月のため、最長でも2ヶ月以内に相続財産調査を済ませておかなければなりません。

相続財産調査の方法について

それでは実際に相続財産調査を行う場合、どのように進めていくのかをまとめてみましょう。

相続財産調査のために揃えておくべき書類について

相続財産調査を行うために、相続人全員が集まる必要はありません。貸金庫の調査のように相続人全員が揃わないと開示できない情報もまれにありますが、基本的には相続人1人だけで相続財産調査を進めていくことができます。

ただし、相続財産調査を順調に進めていくためには、事前に以下の書類を集めておくとよいでしょう。

  1. 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
  2. 被相続人と相続財産調査を行う相続人の関係がわかる戸籍謄本
  3. 相続財産調査を行う相続人の身分証明書

プラス財産の調査方法について

相続財産にはプラスの財産(資産)とマイナスの財産(負債)があります。まずはプラスの財産の調査方法からです。財産の内容ごとに、それぞれの調査方法を確認してみましょう。

預貯金や有価証券・FXなど

預貯金は通帳を集めて各銀行へ問い合わせれば分かりますが、ネットバンクのように通帳がないものもあります。そのため、被相続人の受信メールなどを確認し、ネットバンクなどに口座がないかどうかを調べます。

有価証券や金融商品などについては取引のある証券会社に問い合わせれば分かりますが、ネット証券を利用している場合にはメールなどを確認して有価証券や金融商品の有無を調べます。

FXの場合もネット証券と同様で、口座開設時以外に郵便物が送られてくることはほとんどありません。そのため、メールなどで取引の有無を確認しなければなりません。

なお、FXの財産評価については、未決済ポジションがなく日本円が残っているのであれば相続開始日の残高をその評価額としますが、未決済ポジションがある場合には、相続発生日の最終価格でそのポジションを決済した残高をFXの評価額とします。

非上場企業の株式について

被相続人が生前法人を経営しているなどの理由で非上場会社の株式を所有していた場合、その株式の評価をしなければなりません。

しかしこの作業は高度に専門的なうえに大変複雑なため、相続財産調査で非上場株式が見つかった場合には、税理士などの専門家に依頼することをおすすめします。

不動産

不動産の権利書や毎年市区町村役場から送られてくる固定資産税課税通知書などから不動産の存在を確認し、当該不動産が所在している市区町村役場の固定資産税課に問い合わせて確認します。

ただし共有名義の不動産がある場合、固定資産税課税通知書は代表者にしか送られてきません。手元に権利書や登記簿謄本がなければ相続財産から漏れてしまう恐れがあるため、共有名義の不動産の有無は慎重に調べておかなければなりません。

動産

自動車などの動産も、相続財産に含まれます。問題は、美術品や絵画などの動産が相続財産に含まれている場合です。このようなケースでは、専門家に財産評価を依頼しなければならないことがあります。

マイナス財産の調査方法について

相続財産には、借入金などのマイナスの財産が含まれている場合があります。被相続人がこのようなマイナスの財産を相続人に隠している場合もあるため、手元に残された書類だけでは借入金のすべてを把握することができないことがあります。

そのため、信用情報機関の大手3社(JICC、CIC、JBA)に問い合わせ、被相続人の借り入れ状況を調査します。金融機関からの借り入れであれば、この方法で調査することができます。

ただし、他人の債務の保証債務については、この方法で調べることができません。被相続人が他人の債務の連帯保証人になっている場合には、必ず金銭消費貸借契約書に連帯保証人として署名押印しています。そのため、こういった書類が残されていないかを入念に調べていきます。

相続財産調査にかかる費用について

相続財産調査はとても大切で、しかも調査や評価には専門的な知識も不可欠です。そのため、相続財産調査を専門家に依頼する人も決して少なくありません。

そこで本章では、相続財産調査を弁護士に依頼した場合の費用についてまとめてみます。

相続財産調査のみを行う弁護士はごく少数

実は、相続財産調査のみを行っている弁護士はごく少数です。遺産相続をめぐる争いの解決のために依頼された弁護士が、業務の一環として相続財産調査を行う場合はありますが、相続財産調査だけを依頼できる弁護士は、相続を専門に行っている弁護士など少数です。

ですから、どの弁護士でも相続財産調査のみを引き受けてくれるわけではありません。

費用の相場は10~30万円

弁護士に相続財産調査を依頼した場合、費用の相場はだいたい10~30万円です。相続財産の種類や規模によりことなりますが、報酬と実費(交通費や戸籍謄本などの取得費用など)を含め、10~30万円が相場となります。

遺産相続が争いとなってしまいそうならば弁護士に依頼するのがおすすめ

さきほどお話ししたように、相続財産調査のみを引き受けている弁護士は少数ですが、遺産分割を巡って争いとなりそうであれば、今後の遺産分割協議のことも考慮に入れて相続財産調査の段階から弁護士に依頼しておいた方が良いでしょう。

相続財産調査の依頼先は

最後に、弁護士以外の相続財産調査の依頼先についてご紹介します。

税理士

相続財産調査を税理士に依頼すると、相続財産の評価や遺産分割、相続税のタックスプランニングから申告書作成・相続税の納付まで一連の手続きすべてを任せることができます。

相続財産調査から申告書作成までのすべての流れを業務として行うことができるのは、税理士だけです。

司法書士

司法書士は、相続財産調査や戸籍の収集、相続した不動産の名義変更及び相続放棄や遺産分割協議書の書類作成を依頼することができます。

不動産登記が専門のため、他の業務に関しては基本的に書類の作成が中心となります。

行政書士

行政書士は、相続財産調査や戸籍の収集以外に、相続放棄や遺産分割協議書の書類作成を依頼することができます。

業務の中心は書類作成であるため、法律的なアドバイスや業務を行うことはできません。

それぞれの相場について

それでは3者に相続財産調査を依頼した場合の相場について確認してみましょう。

  • 税理士・・・相続財産調査を行っている税理士は少ないため、特に相場はありません。相続税の申告書の作成報酬が、遺産総額の0.5~1%前後が相場といわれており、相続財産調査を依頼する場合にはこれとは別に報酬を支払うことになります。
  • 司法書士・・・相続財産調査を依頼した場合、10~30万円と言われています。
  • 行政書士・・・相続財産調査を依頼した場合、数万円と言われています。

相続財産調査の依頼先の選び方

ご覧のとおり、相続財産の評価から申告書作成までの一連の業務を行うことができるのは税理士のみです。そこで、相続財産調査の依頼先を選ぶ場合、申告書作成までを見据え、税理士を軸にそれぞれの相続の事情に応じて他の士業を組み合わせていくことをおすすめします。

相続財産調査がそれほど困難でない場合

財産の調査自体は相続人が行い、財産の評価から申告書作成までを税理士に依頼するのがおすすめです。

遺産の分割を巡り相続人同士で争いが起きそうな場合

相続財産調査から遺産分割協議までを弁護士に依頼して相続人同士のトラブルを未然に防ぎ、その後の申告業務までを税理士に依頼することをおすすめします。

相続した不動産の登記を依頼したい場合

相続財産調査と遺産分割協議書の作成、そして不動産の登記までを司法書士に依頼し、その後の申告業務までを税理士に依頼することをおすすめします。

お金をかけず自分の手も極力煩わせたくない場合

やろうと思えばご自身でできるような内容であっても仕事の関係などでやることが出来ず、かつ、できるだけお金をかけたくない場合であれば、相続財産調査と遺産分割協議書の作成を行政書士に依頼し、その後の申告業務までを税理士に依頼することをおすすめします。

まとめ

相続が発生すると最初にしなければならないのが相続財産調査です。この調査を不十分な状態で済ませてしまうと、その後のすべてに大きな影響を及ぼしてしまいます。

特に相続財産の中にマイナスの財産が含まれている場合、相続財産調査を不十分に終わらせてしまうと相続放棄の期限が過ぎてしまう危険があります。

そのため、少しでも心配に思われる方は、できるだけ早い時点で税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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