不動産売却時にかかる譲渡税の仕組み・税金を軽減できる特例を解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

【執筆者:税理士・藤井幹久】
「マイホーム(住居用不動産)を売却すると、どれくらい税金がかかるのか」を知りたい人向けの記事です。
併せて、マイホーム売却時の譲渡税を軽減できる4つの特例についても、わかりやすく紹介します。不動産専門の税理士が解説します。

不動産売却時にかかる譲渡税の仕組みとは?

マイホームを含む不動産を売却したときの譲渡所得(利益)には、所得税・住民税・復興特別所得税がかかります(以下「譲渡税」とします)。ここで注意したいのは、譲渡税が課税されるのは売上ではなく譲渡所得という点です。

不動産を売却時の譲渡税は譲渡所得(利益)にかかる

たとえば、5000万円で不動産を売却しても、これがそのまま譲渡所得になるわけではありません。売却価格の5000万円から取得費、さらに売るときにかかった譲渡費用を差し引いた金額が譲渡所得になります。仮に、取得費と譲渡費用が合わせて4000万円なら、譲渡所得は1000万円になります。

そして、最終的には、この譲渡所得から特別控除額(例:マイホームの3000万円の特別控除の特例」など)を引いた金額が譲渡税のかかる金額になります。ここまで解説してきたことを計算式にすると次のようになります。

譲渡税がかかる「譲渡所得」の計算式譲渡所得=売却価格−(取得費+譲渡費用)−特別控除額

不動産売却時の「取得費」の注意ポイント

上記の計算式のなかの「取得費」については、少し補足が必要でしょう。取得費のなかには土地代・建物代・諸費用などが含まれます。ただ土地代と建物代は扱いが違うので注意してください。土地代は、購入時の仲介手数料を含めてそのまま取得税として計上できます。一方の建物代は、所有している間に計上していた減価償却費(に相当する額)を差し引いて取得費として計上します。

関連記事:譲渡所得税とは?計算方法や節税ポイントを不動産税理士が徹底解説

不動産の所有期間で税率が変わってくる

不動産売却時の譲渡税は、先ほどの計算式で出した譲渡所得に税率を掛けて割り出します。この税率は、不動産を所有している期間で下記のように大きく変わってきます。

所有期間※1 名称 所得税 住民税
5年超 長期譲渡所得 15% 5%
5年以下 短期譲渡所得 30% 9%

※1:不動産を売却した年の1月1日時点の所有期間
※2:2037年まで基準所得税額に2.1%をかけて算出した復興特別所得税が課税されます。

つまり、不動産を売却したときの所得税・住民税を合わせた税率は約2倍も変わってくるわけです。節税を意識するのであれば、短期で売却する事情がない限り、5年を超えてから売却するのがよいでしょう。

居住用不動産を売却したときに所得から控除できる4つの特例とは?

マイホーム(居住用不動産)を売却したとき所得から控除できる特例は、下記の4つになります。いずれも節税メリットが高いため漏れなく活用しましょう。

要チェック1:3000万円の特別控除の特例

3000万円の特別控除の特例とは?

3000万円の特別控除の特例とは、自身で住んでいたマイホーム(居住用不動産)を売却した際の譲渡所得(売却益)から最高3000万円までを控除できる制度です。わかりやすくいうと、マイホームの売却益が3000万円以内だったら税金はかからないということです。ちなみに、この特別控除は不動産の所有期間に関係なく使えます。

1人につき最大3000万円控除できる点がポイント

3000万円の特別控除の特例は、1人につき最大で3000万円控除することができます。例えば、 夫婦で共有していたマイホームを売却し、6000万円の譲渡所得が発生した場合、トータルで最大6000万円控除(3000万円×2人)できるということです。

3000万円の特別控除の特例の適用条件

3000万円の特別控除の特例の適用条件としては、その家に住まなくなって「3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する」というものがあります。これ以外にも、売り手と買い手の関係が親子・夫婦・内縁といった関係でないことなどの適用条件もあります。なお、この特例を受ける条件をくわしく知りたい人は、下記国税庁サイトご参照ください。

参考:国税庁|マイホームを売ったときの特例

3000万円特別控除の特例には確定申告が必須

3000万円の特別控除の特例は、確定申告をすることではじめて受けられるものです。つまり、この特例によって譲渡所得が0円になる場合でも、確定申告をする必要があるということです。確定申告が必須というのは、これから紹介する他の特例も同様のため要注意です。

関連記事:マイホームを売却した時の居住用3,000万円控除の特例を解説

要チェック2:10年超所有マイホーム売却の軽減税率の特例

10年超所有マイホーム売却の軽減税率の特例とは?

10年超所有マイホーム売却の軽減税率の特例とは、10年超所有していた居住用不動産を売却した際、長期譲渡所得よりも低い税率が使える制度です。

長期譲渡所得では、不動産を5年超に渡って所有していた場合、税率が所得税15%・住民税5%・復興特別所得税0.315%(合計20.315%)になりました。さらに、10年超所有していたマイホームを譲渡した場合は、所得税10%・住民税4%・復興特別所得税0.21%(合計14.21%)に軽減されます(6,000万円までの部分)。

「3000万円の特別控除の特例」と併用できるのがポイント

10年超所有マイホーム売却の軽減税率の特例のメリットは、前出の「3000万円の特別控除の特例」と併用できることです。3000万円の特別控除をオーバーしている譲渡所得がある場合、活用することで節税効果があります。ただし、前年、前々年にすでにこの特例を受けている場合は使えないためご注意ください。

10年超所有マイホーム売却の軽減税率の特例の適用条件

この特例の適用条件は、3000万円特別控除の特例と共通です。加えて、マイホームの所有期間が売却した年の1月1日時点で、10年超である必要もあります。この特例を受ける条件をくわしく知りたい人は、下記国税庁サイトご参照ください。

参考:国税庁|マイホームを売ったときの軽減税率の特例

関連記事:マイホーム売却時に利用できる5つの特例を不動産税理士が解説

要チェック3:居住用不動産を買い換えたときの特例

居住用不動産を買い換えたときの特例とは?

居住用不動産を買い換えたときの特例は、条件にあてはまるマイホームを売却して、新たにマイホームを買い換えた際、一定の金額までなら譲渡所得を一時的になかったことにできる制度です。

たとえば、マイホームを4000万円で売却し、新たに5000万円のマイホームを購入した場合、実質上は手元に現金が残りません。そのため売却した譲渡所得を一時的になかったものとみなしてくれる(繰り延べできる)のが居住用不動産の買換特例です。

居住用不動産を買い換えたときの特例の注意点

譲渡所得を一時的になかったものとみなしてくれる(繰り延べできる)というのは、税金がかからないという意味ではありません。新しく購入したマイホームを将来的に売却する際には、譲渡所得にプラスして繰り延べになっていた金額が加算されて課税対象になります。 この特例を受ける条件をくわしく知りたい人は、下記国税庁サイトご参照ください。

参考:国税庁|特定のマイホームを買い換えたときの特例

※なお、「居住用不動産を買い換えたときの特例」と「3000万円の特別控除の特例」及び「10年超所有マイホーム売却の軽減税率の特例」の併用はできません。ご自身にとってメリットのある方を選択しましょう。

関連記事:特定居住用財産の買換え特例とは?不動産税理士がわかりやすく解説

要チェック4:特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例

ここまでは、マイホームを売却して利益が出たときに使える特例をご紹介してきました。ただ実際には、「不動産が高騰するタイミングで好立地の物件を買った」などのケース以外では、マイホームを購入したときよりも、売却したときの方が安くなるのが普通でしょう。このような譲渡損失が出たときに使えるのが「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」です。

この特例では、一定の要件を満たす場合、マイホームを売却して新たにマイホームを購入したときに発生した譲渡損失を同じ年度の給与所得や事業所得などの所得と損益通算(相殺)することができます。もし、損益通算をしても控除できない余った譲渡損失があるときは、 翌年以後3年間の所得と相殺することができます。

なお、マイホームを売却した後、賃貸住宅を借りた場合でも一定の要件を満たす場合にはこの特例を受けることは可能です。この特例を受ける条件をくわしく知りたい人は、下記の国税庁サイトご参照ください。

関連記事:居住用財産の譲渡損失の損益通算と繰越控除を税理士が解説

まとめ

最後に重要なことをお伝えしたいと思います。それは、ここでご紹介してきたマイホーム(居住用不動産)の売却時にかかる所得税を軽減するための特例は、「確定申告をしないと恩恵が受けられない」ということです。

それぞれの特例には細かい要件がたくさんあります。確定申告はご自身でも可能ですが、一般の方が要件を見ると「面倒だな」「後回しにしよう」といった気持ちになりやすいです。そして、申告書の記載ミスなどによりマイホームの特例が受けられなくなってしまうこともあります。売却が間近に迫っている方は、すぐに不動産に強い税理士に相談するのが賢明です。

もし、身近に相談できる税理士がいない場合は、当メディアを監修しているマルイシ税理士法人にお気軽にご相談ください。マルイシ税理士法人は、不動産の売却の確定申告においても国内トップクラスの実績があるため、適切なサポートが可能です。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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