ベストな選択のために
相続した不動産を売却すると税金はどうなる?特例や特別控除を解説
相続財産には多くの場合被相続人の自宅などの不動産が含まれています。しかし、相続人がすでに自宅を持っている、あるいは遠方に住んでいるにも関わらず、実家を相続せざるを得ない場合があります。相続した実家を誰かに貸すことができれば良いのですが、古い家であればなかなかそれも簡単ではありません。もちろん、今の家を売って実家へ引っ越すことも難しいでしょう。
目次
しかし、ただ放置しておくのも簡単ではなく、庭木の手入れやさまざまなメンテナンス、そして固定資産税や火災保険などの費用も毎年発生してしまいます。
「それならいっそ売ってしまおう!」と考えた場合には、いったいどれくらいの税金が必要となるのでしょうか?また、相続した不動産を売却する場合は、通常の不動産売買と比べて何か違いはあるのでしょうか?
相続した不動産の売却にかかる税金の種類について
相続した不動産を売却した場合、以下の2種類の税金がかかります。
- 印紙税
- 譲渡所得税・住民税(以下「譲渡税」)
不動産の売却と印紙税
不動産を売買する場合には、売買契約書を作成して売り手との間で売買契約を締結します。この契約書には印紙を貼ることが義務付けられており、印紙を貼ることで印紙税を納税したものとみなされます。
なお、印紙税の金額は不動産の契約金額に基づき以下のように定められています。
契約金額 | 税額 |
---|---|
1万円未満のもの | 非課税 |
10万円以下のもの | 200円 |
10万円を超え50万円以下のもの | 400円 |
50万円を超え100万円以下のもの | 1千円 |
100万円を超え500万円以下のもの | 2千円 |
500万円を超え1,000万円以下のもの | 1万円 |
1,000万円を超え5,000万円以下のもの | 2万円 |
5,000万円を超え1億円以下のもの | 6万円 |
1億円を超え5億円以下のもの | 10万円 |
5億円を超え10億円以下のもの | 20万円 |
10億円を超え50億円以下のもの | 40万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 |
不動産の売却と譲渡税
不動産を売却した場合、売却価格から取得価格と売却にかかった仲介手数料などの譲渡費用を差し引いた譲渡益に対して譲渡税が課税される可能性があります。
ただし、その税率は、不動産の所有期間に応じて2種類に分かれています。不動産の所有者がその不動産を取得してから売却した年の1月1日までの期間が5年以下の場合を「短期譲渡所得」、5年超を「長期譲渡所得」とし、その税率を以下のように定めています。
- 短期譲渡所得の税率・・・所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%=39.63%
- 長期譲渡所得の税率・・・所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%=20.315%
ちなみに、相続した不動産を売却した場合の不動産の所有期間は、相続人が相続した日からでなく、被相続人がその不動産を所有した日から売却した年の1月1日までの期間を所有期間とします。
相続した不動産を売却する場合譲渡税が軽減される特例がある
相続した不動産を売却する場合、譲渡税が軽減される特例を受けられる可能性があります。これを知らないで確定申告してしまうと大損をしてしまいますから、しっかりと確認しておきましょう。
相続した不動産を売却した場合の税金の計算方法
相続した不動産を売却した場合、以下の算式を用いて税金を計算します。
・相続した不動産を売却した場合の税金={譲渡対価-(①取得費+②譲渡費用)-③特別控除}×④税率
では、①から④までのそれぞれの項目について、詳しくご説明します。
①取得費とは
「取得費」とは、不動産を取得した金額のことです。不動産が土地だけであれば、被相続人(亡くなった方)が購入した時の売買契約書を見れば分かりますが、不動産が土地と建物の両方である場合は、取得時からの経過年数に応じて建物の取得費を減価償却しなければなりません。
ですから、古い実家を相続して売却する場合には、建物の取得費は建物の購入時と比べて随分と少ない金額になっているはずです。
また、不動産購入時の契約書が見つからない場合などには、譲渡価格の5%を取得価格とすることが認められています。
②譲渡費用とは
「譲渡費用」とは、不動産売却時にかかった費用のことをいいます。具体的には、不動産仲介手数料や印紙代などが譲渡費用となります。
③特別控除
「特別控除」とは、不動産を売却した利益から(条件が当てはまる場合に限り)さらに一定額を控除(=引くこと)することが認められている制度のことをいいます。
相続した不動産を売却する場合には、いくつかの特別控除が認められています。この特別控除に関しては、後ほど詳しくご説明します。
④税率
不動産の譲渡所得の税率については、前章でご説明したように所有期間に応じて短期と長期の税率が適用されます。
相続した不動産を売却する場合の特別控除や特例などについて
相続した不動産を売却する場合は、売却にかかる税金を安くすることができる特別控除や特例があります。これを利用しないと税金が高額になってしまうため、しっかりと確認しておきましょう。
取得費加算の特例
相続で取得した不動産を相続税の申告期限から3年以内に売却する場合には、その不動産を相続するために支払った一定の相続税額を、取得費や譲渡費用などとともに譲渡価格から控除することができます。
軽減税率の特例
売却した年の1月1日時点で所有期間が10年を超えるマイホームを売却した場合には、特別に以下の税率が適用されます。
- 譲渡益が6,000万円までの部分の税率・・・所得税10%+復興特別所得税0.21%+住民税4%=14.21%
- 譲渡益が6,000万円を超える部分の税率・・・所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%=20.315%
3,000万円の特別控除
相続で取得した不動産に居住しており、そのマイホーム(居住用財産)を売った場合は、所有期間の長短にかかわらず、譲渡所得から最高で3,000万円までを控除することができます。なお、この3,000万円の特別控除は上述の軽減税率の特例と併用することができます。
被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
被相続人と生前から同居しておらず、相続後も入居していない「空き家」の状態で売却をした場合でも、一定の要件を満たしている場合には最大で3,000万円までの特別控除を受けることができます。
ただし、上述の取得費加算の特例とは併用できず、選択適用となっています。
買換え(交換)の特例
相続で取得し居住していた不動産(マイホーム)を、売却した年の前年から翌年までの3年間の間に買換え等をした場合は、譲渡対価が1億円以下、売った年の1月1日現在で所有期間10年超、居住期間10年以上の場合など一定の要件に該当する場合には、その譲渡益の課税を繰り延べる特例を受けることができます。
ただし、上述の軽減税率の特例または3,000万円の特別控除とは併用できず、選択適用となっています。
印紙税について
相続した不動産を売却する場合、売買契約書に収入印紙を貼らなければなりません。ただし、平成26年4月1日から令和4年3月31日までの間に作成された不動産譲渡契約書については、印紙税の税額が以下のように軽減されています。
契約金額 | 税額 |
---|---|
100万円を超え500万円以下のもの | 1千円 |
500万円を超え1,000万円以下のもの | 5千円 |
1,000万円を超え5,000万円以下のもの | 1万円 |
5,000万円を超え1億円以下のもの | 3万円 |
1億円を超え5億円以下のもの | 6万円 |
5億円を超え10億円以下のもの | 16万円 |
10億円を超え50億円以下のもの | 32万円 |
相続した不動産を売却する場合は必ず確定申告が必要
相続した不動産を売却する場合、ご自身で購入した不動産を売却する時と同じように、確定申告をして納税しなければなりません。
前章でお話ししたように、相続した不動産を売却する場合にはさまざまな特別控除や特例があるため、上手に利用すると納税額が0円になることもありますが、特別控除や特例を受けるためには納税額が0円でも必ず確定申告をしなければなりません。
もし確定申告をしないままで税務調査を受け、修正申告をしなければならない場合にはこれらの特別控除や特例は一切使えなくなってしまいます。その結果高額な納税をしなければならない可能性があるため、必ず確定申告をするようにしてください。
相続不動産の売却は税理士に相談するのがおすすめ
相続した不動産を売却する場合、建物の減価償却費を計算しなければ正しい申告をすることができません。また、上述のように申告時にはさまざまな特別控除や特例を利用することができますが、併用できるものとできないものとがあり、どれとどれを組み合わせるのがベストなのかはケースバイケースです。
一般的に不動産の売買は高額な取引になることが多く、一歩間違えれば納税額も高額になってしまう反面、節税プランも十分に立てることができるため、リスクを回避してメリットを最大限受けるためには、相続や不動産に強い税理士に相談するのが良いでしょう。税理士は税の専門家ですから、確定申告から税務調査対策までのすべてを任せることができます。
なお、マルイシ税理士法人は不動産と相続に特化して業務を行っているため、不動産や相続に関するあらゆるケースや特殊なニーズに対しても柔軟に対応することができます。税務リスクを抑えてベストの選択をするために、できるだけ早い段階でご相談いただけますようお待ちしております。
まとめ
相続した不動産を売買する場合にはさまざまな控除や特例を利用することができますが、そのためには必ず確定申告をしなければなりません。また、特別控除や特例は併用することができるケースもありますが、どれを用いるのが一番良いのかを判断するためには高度な税務知識が必要となります。
さまざまな節税策を上手に活用すれば、納税額を大幅に減額することも、場合によっては0円にすることも十分に可能です。そのためには、できるだけ早い段階から専門家に相談するのが良いでしょう。