相続の廃除とは?相続廃除ができるケースや種類と認められた場合

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

遺産相続は、遺言書があれば遺言書通りに、また遺言書がない場合は、民法で定められている法定相続人によって遺産が相続されます。
ただし、遺言書がある場合でも、配偶者と第二順位までの法定相続人には法定相続分の1/2を相続する権利が与えられているため、遺言書の内容がその権利を侵害している場合には、法定相続人としての相続権を主張することができます。

第二順位までの相続人に与えられている最低限の相続分のことを、「遺留分(いりゅうぶん)」といいます。

では、被相続人が将来法定相続人となる予定の人物に対して、遺留分すら相続させたくないと思った場合、そのようなことは可能なのでしょうか?

世の中には、残念なことに、被相続人と不仲な(将来法定相続人となる予定の)相続人もいます。単に「不仲である」という限度を明らかに超えている場合であっても、第二順位までの法定相続人であれば一定の相続権が認められるのでしょうか?

相続の廃除とは?

法定相続人としての相続権は、被相続人との血縁関係によって定められています。したがって、被相続人に対して生前何か特別なことを行っても行わなくても、その相続権は認められています。

ただし、特段の理由があった場合に、その相続権を法定相続人から剥奪することが制度として認められています。これを、相続の廃除といいます。

相続の廃除の制度

相続の廃除とは、被相続人が将来相続人となる予定の人物の持っている相続権を失くしてしまうことをいいます。

たとえば、被相続人とその子供の折り合いが悪く、子供の相続権を廃除するにふさわしいと家庭裁判所が判断した場合は、子供の相続権は廃除されることになります。

関連記事:遺産相続の相続順位とは?法定相続分と法定相続人が持つ権利について解説

推定相続人と法定相続人の違いとは

推定相続人とは、将来相続人になる予定の人のことをいいます。たとえば、Aさんに配偶者のBさんと1人の子供(長男C)がいる場合、BさんCさんの2名は将来Aさんの相続人になることが推定されます。したがって、この2名はAさんの推定相続人となります。

いっぽう法定相続人とは、すでにAさんが亡くなっている場合で、民法によって血縁関係により確定している相続人のことをいいます。

廃除で推定相続人の相続権を100%奪うことが可能

相続の廃除が家庭裁判所で認められると、推定相続人の相続権を遺留分ごと根こそぎ奪ってしまうことが可能になります。

生前贈与や遺言書では配偶者と第二順位までの推定相続人の遺留分まで奪うことはできませんが、相続の廃除が認められると、あらゆる推定相続人の相続権を遺留分ごと100%奪うことが可能になります。

相続廃除の要件と廃除できるケース

上述のように、被相続人は相続人を廃除するための申し立てを行うことができます。しかし、この申し立てが簡単に通ってしまっては、今度は相続人の権利が侵害されてしまいます。

したがって、相続廃除の申し立ては家庭裁判所でかなり厳密に審査された後で審判が下されるため、決して申請すれば簡単に認められるようなものではありません。

それでは、どのような場合に相続廃除の申し立てが認められるのでしょうか?

廃除には廃除原因が必要

相続廃除のための廃除原因は、民法892条で以下のように定められています。

  • 被相続人に対する虐待または重大な侮辱
  • その他の著しい非行

ただし、被相続人に対する虐待や侮辱、非行などは金銭や数値などで測ることができないため、家庭裁判所の審査では、これらの程度や被相続人側の責任なども考慮した上で、客観的総合的に判断が下されます。

相続廃除が認められた事例

それでは、実際に廃除が認められた事例にはどのようなものがあるのか、判例をいくつか見てみましょう。

事例①虐待による廃除

被相続人と事業を巡って口論になった推定相続人が、魔法瓶などを投げつけて玄関のガラスを割り、灯油をまいて放火すると被相続人を脅しました。被相続人は仕方なく親族が経営する旅館に避難せざるを得ませんでした。

事例②重大な侮辱による廃除

推定相続人は、被相続人に事業資金の援助を受けていたにも関わらず老後の面倒を一切みず、被相続人に対して侮辱・罵倒を繰り返したうえ熱湯の入ったやかんを投げつけて負傷させました。

事例③著しい非行による廃除

推定相続人は窃盗などを繰り返し、被害者への謝罪や賠償・借金の返済などを被相続人に押し付け、多額の金銭的負担と多大な精神的苦痛を被相続人に与え続けました。

判例では、こういった事例において廃除を認めています。逆に、少々激しい口論を数回行った程度では、廃除の要因にまではあたらないとみなされています。

相続廃除の方法

相続廃除の申し立てを家庭裁判所行う方法には、以下の2つがあります。

  • 生前廃除
  • 遺言廃除

生前廃除

生前廃除とは、被相続人が自ら家庭裁判所に廃除のための申請を行い、推定相続人を廃除することをいいます。

具体的には、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に推定相続人廃除審判の申立書を提出し、家庭裁判所による審判を経て推定相続人の生前廃除が決定されます。

なお、生前廃除の申し立てを行う場合、申立書以外にも以下の書類が必要となります。

  • 被相続人の戸籍謄本
  • 相続廃除したい推定相続人の戸籍謄本

また、費用として1件あたり800円分の収入印紙と、連絡用の郵便切手代が必要となります。

遺言廃除

遺言廃除とは、被相続人が遺言によって相続人を廃除する旨を記載することにより廃除することをいいます。

具体的には、相続が開始された後で遺言執行者が家庭裁判所に相続人廃除審判の申立書を提出し、家庭裁判所による審判を経て相続人の遺言廃除が決定されます。

なお、遺言廃除の申し立てを行う場合、申立書以外にも以下の書類が必要となります。

  • 遺言廃除したい相続人の戸籍謄本
  • 被相続人の死亡が記載された戸籍謄本など
  • 遺言書の写しまたは遺言書の検認調書謄本の写し
  • 遺言執行者選任の審判書謄本

また、費用として1件あたり800円分の収入印紙と、連絡用の郵便切手代が必要となります。

相続人廃除と代襲相続について

相続廃除が認められた場合、相続人が相続権を失うタイミングや廃除の効力が及ぼす範囲などはどれほどになるのでしょうか?

廃除で相続権を失うタイミング

被相続人の相続廃除の申し出が認められ、相続人が相続権を失うタイミングは、生前廃除と遺言廃除によってそれぞれ以下のようにことなります。

  • 生前廃除によって相続権を失うタイミング・・・家庭裁判所での審判が確定した瞬間から
  • 遺言廃除によって相続権を失うタイミング・・・家庭裁判所で審判が確定した瞬間ではなく、相続開始の瞬間から
  • 生前廃除の審判が下される前に被相続人が亡くなってしまった場合のタイミング・・・相続開始の瞬間から
  • このように、相続廃除の方法や被相続人がいつ亡くなったかによって、相続人が相続権を失うタイミングはことなります。

    廃除の効果は相対的

    相続廃除の審判が下された相続人は、廃除を求めた被相続人の遺産相続に関して相続権を失います。しかしこれは、申し出を行った被相続人に対する相続権を失っただけであり、あらゆる相続についての相続権を失ったわけではありません。

    ですから、例えば父親の相続に関して廃除の審判を受けたとしても、母親の相続に関しては、法定相続人としての相続権は引き続き有し続けることになります。

    廃除者の子孫の相続権

    廃除を受けた相続人の代襲相続人は、引き続き代襲相続権を持ちます。したがって、廃除を受けた相続人が相続前に亡くなってしまった場合は、その代襲相続人が遺産の相続権を有することになります。

    たとえば、非行の激しい推定相続人に対して生前廃除の審判が下されたとしても、実際の相続前にその推定相続人が亡くなってしまった場合は、相続人の子供や孫などの代襲相続人は相続権を持つことができます。

    相続廃除と相続欠格の違いについて

    廃除と同じように、相続人の相続権を喪失させるものとしては相続欠格があります。では、相続廃除と相続欠格にはどのような違いがあるのでしょうか?

    相続欠格と相続廃除の違い

    相続廃除を行う場合、生前廃除も遺言廃除もどちらも、被相続人の意思によって行われます。仮に、被相続人に対する虐待や重大な侮辱などがあったとしても、被相続人が相続廃除の申し立てを行わなければ相続人の相続権が奪われることはありません。

    これに対して相続欠格は、被相続人の意思とは関係なく相続人の相続権を奪ってしまいます。
    相続欠格とは、故意に被相続人や他の相続人を殺害したり、遺言書を偽造した相続人に対して与えられる罪であり、相続廃除と比べはるかに罪が重いと考えられているため、このように被相続人の意思に関係なく相続人の相続権を奪う制度として制定されています。

    まとめ

    被相続人が推定相続人に対して自分の財産を相続させたくないと考えた場合、家庭裁判所への申し立てを行うことにより、相続廃除を行うことができます。相続廃除が認められると、推定相続人の相続権は遺留分ごとすべて喪失してしまいますが、これが認められるためには、家庭裁判所による厳格な審査を通過しなければなりません。

    そもそも相続は、多額の財産が関係するためトラブルが起こることも決してめずらしくなく、遺産の分割を巡る裁判も親族間で毎年数多く行われています。

    しかし、こういったトラブルは金銭が発端となるものが多いだけに、事前に準備をしておくことにより解決できるものも数多くあります。

    遺産相続に関してご心配な方は、相続に詳しい弁護士などの専門家にできるだけ早い段階で相談し、トラブルを起こさないための方法を事前に準備しておくように心がけておきましょう。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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