相続法の改正で何が変わった?改正点やメリットについてわかりやすく解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

平成30年7月に相続法の見直しをするための「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」と,法務局における遺言書保管のための「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立しました。
民法には、人が亡くなった後にその人の財産をどのようにするのかを定めた部分があり、これは「相続法」などと呼ばれています。

今回、昭和55年以来約40年ぶりに相続法が改正されたことにより、多くの分野で起きていた不都合のかなりの部分が解消されることになりました。

そこで本日は、相続法の改正点について解説していきます。

相続法改正の概要について

今回の改正により相続税法がどのように変わったのかその詳細についてご紹介する前に、まずざっくりと全体像を把握してみましょう。

今回改正されたのは、以下の6分野です。

  • 配偶者の居住を保護する制度の設立
  • 遺産分割などに関する見直し
  • 遺言制度に関する見直し
  • 遺留分制度に関する見直し
  • 相続に伴う効力に関する見直し
  • 相続人以外の被相続人への貢献に関する見直し

配偶者の居住を保護する制度の設立

相続財産のうち居住用不動産の占める割合が高い場合が多いため、自宅を相続すると現金預金が相続できず、現金預金を相続すると自宅を相続できないことが多々ありました。

これでは、残された配偶者が引き続き自宅に住み続けながら、老後の資金もある程度確保することが難しくなってしまうため、新たに配偶者居住権が新設されました。

関連記事:配偶者居住権とは?制度の概要やメリット・デメリットや相続時に知っておきたいポイントを解説

遺産分割などに関する見直し

生前に多額の贈与を受けていた場合は「遺産の先渡し」とみなされ、それらの特別利益は相続財産に持ち戻し(算入)計算しなければなりません。しかし、婚姻期間が20年以上の夫婦間行われた居住用不動産などの贈与は、特別利益の持ち戻し計算の対象から免除されることになりました。

また、遺産分割協議前の被相続人名義の預貯金の一部について、払い戻しが可能になりました。

緩和されることになりました。

関連記事:遺産分割とは?相続との違いや遺産分割方法について解説

遺言制度に関する見直し

自筆証書遺言の作成に関する条件が緩和され、遺言内容の一部をパソコンなどで作成することができるようになりました。

同時に、作成した自筆証書遺言の保管を法務局が行うサービスが開始されることとなりました。

関連記事:自筆証書遺言とは?作成ルールと注意したいポイントを解説

遺留分制度に関する見直し

遺留分を侵害された場合、侵害額に相当する金銭を請求することができるようになりました。これにより、相続財産の共有化を防ぐとともに、遺言者の意志を尊重できるようになりました。

関連記事:遺留分とは?遺留分の割合・計算方法などをわかりやすく解説

相続に伴う効力に関する見直し

法定相続分を超える財産を取得した場合、取得原因に関わらず登記を済ませなければ第三者に対抗することができなくなりました。

また、被相続人に債務があった場合、債権者は法定相続分と指定相続分のどちらに従って債権の請求を行うのかを選択することができるようになりました。

相続人以外の被相続人への貢献に関する見直し

これまでは被相続人への生前の寄与分が認められるのは相続人のみでした。これが改正され、相続人以外の親族にも特別な寄与が認められるようになりました。

このように、おもに6つの分野について、相続税法が改正されることになりました。それでは次章より、改正された内容についてそれぞれ具体的に解説していきます。

配偶者居住権の新設

「自宅を相続すると老後資金を相続できず、老後資金を相続すると自宅から出ていかなければならない」という配偶者の不具合を解消するために、新たに「配偶者居住権」が新設されました。

主な改正点

不動産を「配偶者居住権」と「負担付き所有権」に分割して相続することができるようになりました。

改正によるメリット

たとえば、以下の条件で相続が起こったとします。

  • 相続財産・・・現金1,000万円、住宅1,000万円(合計2,000万円)
  • 法定相続人・・・配偶者1人、子供1人(合計2人)
  • 相続割合・・・配偶者1/2、子供1/2

従来の制度では、配偶者が引き続き自宅に住み続けながら老後のための資金も相続することはできませんでした。

しかし、配偶者居住権が新設されたことにより、住宅を配偶者居住権と負担付き所有権に分割して相続することができるようになりました。

その結果、たとえば住宅の配偶者居住権を500万円、負担付き所有権が500万円だとすると、配偶者は住宅の配偶者居住権500万円と現金の500万円(合計1,000万円)を相続できるようになりました。

これで、配偶者は引き続き自宅に住み続けながら、ある程度の現金預金を相続することができるようになり、終の棲家と老後資金の両方を確保できるようになりました。

婚姻期間20年以上の夫婦間における居住用不動産贈与の優遇

多額の生前贈与を受けていた場合、これらは「遺産の先渡し」とみなされ、相続時にはその分を遺産に反映させて各自の相続分を再計算します。

婚姻期間20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与に関しては、今回の改正によりその対象外となりました。

主な改正点

居住用不動産の生前贈与を相続財産に含める必要がなくなったため、相続時に配偶者の相続分が増えました。

改正によるメリット

たとえば、以下の条件で相続が起こったとします。

  • 相続財産・・・現金1,000万円、自宅0円(ただし、婚姻期間20年以上の夫婦間における居住用不動産贈与として1,000万円を贈与済み)
  • 法定相続人・・・配偶者1人、子供1人(合計2人)
  • 相続割合・・・配偶者1/2、子供1/2

これまでの場合、配偶者が生前に贈与を受けた1,000万円の住宅は相続財産として持ち戻し計算されるため、相続財産は現金1,000万円、住宅1,000万円(合計2,000万円)となり、住宅の贈与を受けている配偶者は現金を相続できませんでした。

しかし、今回の改正で生前贈与の持ち戻し計算をする必要がなくなったため、相続財産は現金1,000万円のみとなり、配偶者は老後資金として500万円を相続することができるようになりました。

預貯金の払い戻し制度の創設

被相続人が亡くなると預金口座が凍結されてしまうため、葬儀費用や医療費の未払いなどの支払いを相続人が一旦立て替え払いしなければなりませんでした。そこで、預金口座の払い戻しに関する制度が新たに創設されました。

主な改正点

民法909条の2が新設され、他の共同相続人の合意等を得なくても相続人が単独で預貯金の払い戻しを受けることができるようになりました。

なお、払い戻しができる金額には上限があり、「1金融機関あたり150万円」または「払い戻しを受けようとする相続人の相続分の1/3の額」のいずれか少ない方の金額となります。

また、預貯金に限定して仮払いの必要があると家庭裁判所が認めた場合は、他の共同相続人の利害を侵害しない範囲で預貯金の全部もしくは一部の仮払いができるようになりました。

改正によるメリット

今回の改正により、葬儀費用や医療費の未払い分の支払いなどのほか、被相続人の借金の返済なども被相続人の残した財産の中からできるようになりました。

自筆証書遺言の方式緩和

自筆証書遺言を作成する場合、これまでは全文を自筆で作成しなければならず、高齢者や体調の悪い人にとっては簡単なようでハードルの高いものでした。そのため、今回の改正により一部要件が緩和されることになりました。

主な改正点

自筆証書遺言は遺言書と財産目録によって構成されていますが、そのうちの財産目録については自筆ではなくパソコンでの作成が認められることになりました。また、通帳のコピーの添付も認められることになりました。

改正によるメリット

財産目録をパソコンで作成することができるようになったため、自筆証書遺言作成のためのハードルが下がり、作成しやすいものになりました。

法務局における自筆証書遺言の保管制度創設

自筆証書遺言は、作成後自分で保管しなければならないため、紛失や相続人などによる改ざんなどの恐れがありました。しかし、今回の改正により、作成した自筆証書遺言を法務局が保管するサービスが開始されました。

主な改正点

遺言者が自ら申請することにより、作成した自筆証書遺言を法務局で保管することができるようになりました。これにより、遺言書の紛失や改ざんなどの恐れがなくなりました。

遺言者が亡くなると、相続人や受贈者は全国にある遺言書保管所で遺言書が保管されているのかを調べることができ、遺言書の写しの交付や閲覧をすることができます。

改正によるメリット

自筆証書遺言を法務局に保管してもらえるため、紛失や改ざんなどの恐れがなくなりました。また、法務局に自筆証書遺言を預けた場合は家庭裁判所による検認手続きが不要になりました。

遺言の活用

諸外国と比べると日本人は遺言書を作成する比率が低いため、相続を巡る訴訟は年々増加する傾向にありました。そこで、自筆証書遺言の作成や保管のための制度を整備し、遺言の活用がしやすいように制度の改正が行われました。

主な改正点

上述のように、自筆証書遺言の作成要件が緩和され、財産目録に関しては自筆でなくパソコンでの作成が認められるようになりました。

また、作成した自筆証書遺言を法務局が保管する制度ができたため、紛失や改ざんなどの恐れがなくなりました。

改正によるメリット

自筆証書遺言に関する作成や保管のための問題点が改善されたため、多くの人が遺言書を作成しやすくなり、相続による争いを防止する効果が期待できるようになりました。

遺留分制度の見直し

配偶者と相続順位が第二順位までの相続人には、法定相続分の1/2の財産を相続する権利が認められています。これを「遺留分」といいます。遺留分を侵害された相続人がその権利を行使することにより、相続財産の共有化が起こり、これが事業承継等の妨げになっていました。

主な改正点

遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額に相当する金銭を請求できるようになりました。また、金銭をただちに用意できない場合でも、裁判所に支払期限の猶予を求めることができるようになりました。

改正によるメリット

これまでは、侵害された遺留分対する請求権は「目的物の返還権」と考えられていましたが、今回の改正により「金銭の支払請求権」となりました。

その結果、相続した遺産の共有化による弊害を防ぎ、遺言者の意思を尊重することができるようになりました。

特別の寄与の制度創設

これまで、被相続人に対する介護などの寄与分は相続人にしか認められませんでした。そのため、相続人に代わってその妻などが介護を行ったとしても、報われることはありませんでした。

今回の改正により、これらが大幅に改正されることになりました。

主な改正点

相続人以外の被相続人の親族が介護などを行った場合、相続人に対して金銭を要求できるようになりました。

改正によるメリット

相続人以外の親族が被相続人に対して寄与を行った場合は、特別寄与料として金銭を授受できるようになりました。その結果、介護に対する負担が報われ、公平性を保つことができるようになりました。

関連記事:遺産相続とは?手続きの流れや相続税の計算方法など基本知識を解説

まとめ

相続法が約40年ぶりに改正されたことにより、「配偶者居住権」や「特別な寄与」などが新設され、また自筆証書遺言のような使い勝手の良くなかった制度に関しては、要件が緩和され使いやすいものへと変わりました。

もちろん、これですべてが解決したわけではありませんが、相続にまつわるさまざまな問題点のいくつかが解決に向かって進んだことは間違いありません。

改正にともない、相続対策についても従前とは異なる対策をすべき場合もあります。今後具体的に相続対策を進める方は、相続に強い弁護士や税理士などの専門家に、早い段階からご相談された方が良いでしょう。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

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税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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