多くの手続きに遺産分割協議書が必要

遺産分割協議書の書き方とは?作成の流れと注意すべきポイント

相続が起こり相続財産を分割する場合は、遺言書があれば遺言書の内容にしたがって財産を相続していきますが、遺言書がない場合は法定相続人同士で話し合い、誰がどの財産をどのように相続していくのかを決めなければなりません。この時、話し合いによって決まった内容を書面にまとめ書き記したものを「遺産分割協議書(いさんぶんかつきょうぎしょ)」といいます。

監修者情報

税理士 藤井 幹久 (ふじい みきひさ)

マルイシ税理士法人 代表社員税理士

専門分野: 不動産税務、相続・事業承継対策、税務顧問、セミナー講師等

不動産をお持ちの方(個人及び会社)の、税理士業務と相続・事業承継対策を専門としています。これまでに10,000件を超える不動産と相続に関する税務相談を行ってまいりました。

目次

遺産分割協議書とは?


それではまず、遺産分割協議書に関する基本的な内容からしっかりと押さえておきましょう。

遺産分割協議書とは

遺産分割協議書とは、冒頭でお話ししたように、相続人同士が相続財産の分割方法をめぐる話し合いを重ね、その結果誰がどの遺産をどれだけどのように相続するように決まったのかを書き記したものです。とは言え、すべての場合に遺産分割協議書の作成が必要であるわけではありません。

そこでまず、どのような場合に遺産分割協議書を作成し、どのような場合には作成しないのかをまとめてみます。

遺産分割協議書を作成しなければならない場合

遺産分割協議書を作成しなければならないのは、以下のケースです。

         

  • 遺言書がない場合
  • ・・・遺言書がない場合は、誰がどの財産をどのように相続するのかを決めなければなりません。話し合いで決まった内容をもとに、遺産分割協議書を作成します。

  • 遺言書にすべての財産が書かれていない
  • ・・・遺言書にすべての財産の相続に関する指示が書かれていない場合があります。このように遺言書から漏れてしまった財産に関しては、相続人同士で話し合い、遺産分割協議書を作成します。

遺産分割協議書を作成する必要がない場合

逆に、遺産分割協議書を作成する必要がないのは、以下のケースです。

  • 法定相続人が1名の場合
  • ・・・法定相続人が1名しかいない場合は、他の相続人と遺産の分割方法を協議する必要がないため、遺産分割協議書を作成する必要がありません。

  • 遺言書がある場合
  • ・・・財産の相続方法を漏らすことなくすべて書き記した遺言書がある場合は、遺産分割協議書を作成する必要はありません。

  • 財産を法定相続分で分ける場合
  • ・・・すべての財産を法定相続分で分ける場合は、遺産分割協議書を作成する必要はありません。ただしその場合は、すべての財産は共有名義となるため、相続人全員の総意がなければ売却や処分などができなくなってしまいます。

遺産分割協議書が相続手続きに必要なことも

相続した財産を名義変更する場合は、遺産分割協議書が必要になります。具体的には、土地や建物などの不動産や、預貯金や株式などの有価証券の名義を被相続人から相続人へ変更する場合は、誰が相続するのかを確認するために遺産分割協議書が必要となります。

それ以外にも、相続税の申告を行う場合には遺産分割協議書の写しを税務署に提出しなければなりません。

遺産分割協議書作成の流れ


遺産分割協議書がどのようなものかご理解いただいたところで、実際に作成するための流れを確認しておきましょう。

遺産分割協議はいつから行うべき?

遺産分割協議書がなければ財産の名義変更はできませんし、相続税の申告を行うこともできません。相続手続きには相続税の申告のように期限が定められているものもあるため、できるだけ早い段階から協議を行った方が良いでしょう。

ただし、遺産分割協議を行う前に、どのような財産があるのかを特定しておかなければなりません。また、遺産分割協議には法定相続人が全員参加しなければならないため、被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本をすべて集め、誰が相続人になるのかも特定しておかなければなりません。

遺産分割協議書を作成するのはいつ?

遺産分割協議の準備ができたら、誰がどの財産をどれだけ相続するのかを協議します。話し合いがまとまり次第、その内容をまとめて遺産分割協議書を作成します。なお、遺産分割協議書は相続人の数だけ作成し、最後に相続人全員が署名し、実印による押印をします。

遺産分割協議書作成の大まかな流れ

それでは、ここまでの流れを大まかにまとめてみます。

  1. 被相続人が亡くなる
  2. 葬儀が行われる
  3. 遺言書の有無などを確認し、遺産分割協議書を作成する必要があるかどうかを調べる
  4. 相続財産調査を行い、相続財産を特定する
  5. 相続人調査を行い、相続人を特定する
  6. 相続人が全員集まり、遺産分割協議を行う
  7. 話し合いがまとまったら、遺産分割協議書を作成する
  8. 相続人の数だけ遺産分割協議書を作成し、問題がなければ署名押印する

遺産の特定方法

遺産分割協議書を作成するためには、相続財産調査を行いどのような財産が残されているのかを調べなければなりません。それらを具体的にはどのように調べ、特定していくかについてご紹介します。

財産の種類ごとの特定方法

それではまず、財産の種類ごとに、その特定方法を見ていきましょう。

預貯金の特定方法

被相続人の預貯金がどの銀行にあるのかを調べるためには、通帳やキャッシュカード・金融機関からの郵便物や粗品などから取引のあった金融機関を推測していきます。金融機関が特定できた段階で、残高証明の発行を依頼します。

ただし、ネットバンクを利用している場合はこれらの方法では特定するのが難しいため、メールなども同時に調べなければなりません。

株式の特定方法

株式を特定するためには、どの証券会社に取引口座を開設していたのかを調べなければなりません。証券会社からの取引残高報告書が見つかれば、証券会社に問い合わせることで株式を特定することができます。

しかし、最近はネット証券を利用する人が増えているため、メールなども同時に調べ、取引のあった証券会社を特定していきます。

不動産の特定方法

不動産を所有している場合は権利書や登記簿謄本や契約書などの書類が残されている場合が多いため、まずはそれらの有無を調べます。

また、不動産の所在地を管轄している市区町村役場からは毎年固定資産税の納付書が送られてくるため、これらを足掛かりにして不動産を特定していきます。

遺産の調査方法例

次に、遺産の調査方法を3つご紹介します。

調査方法① 被相続人の自宅や部屋を調査する

ほとんどの重要書類や金品などは、自宅や部屋を丹念に調査することで見つけることができます。預貯金の通帳や不動産の契約書や権利書、保険証券などは、たいていの場合自宅や部屋の調査で見つけることができます。

調査方法② 被相続人のパソコンや携帯電話を調査する

ネットバンクやネット証券などインターネットを経由したサービスを被相続人が利用していた場合は、書類の調査だけでは確認できないことがあります。そのため、被相続人のパソコンや携帯電話などを調べ、ネットバンクやネット証券などの口座の有無を調べます。

調査方法③ 被相続人が生前利用していた機関を調査する

被相続人が生前利用していた銀行や証券会社、保険会社に問い合わせることにより、どのような財産があるのかを調査することができます。また担当者の話などから、それ以外の遺産が見つかる手がかりなどが得られることもあります。

遺産分割協議書を作成する際のポイント

遺産分割協議書には決まった形式はありません。ですから何をどのように書いても特に問題はありませんが、最低限記載しなければならない内容や様式などはあります。そこで最後に、遺産分割協議書を作成する際に気を付けておきたいポイントを4つほどご紹介します。

ポイント① 遺産分割協議後はなるべく早く作成する

遺産の分割方法をめぐる話し合いがまとまったら、あとはそれを書面にまとめるだけです。だからと言って、作成を先延ばしにするべきではありません。

その間に相続人の気が変わってしまう場合もありますし、そのまま放置しておくと最悪の場合相続人の誰かが亡くなってしまい、遺産分割協議そのものをもう一度やり直さなければならなくなってしまう可能性もあります。

誰が遺産を受け取るのか明確に記述する

遺産分割協議書には、誰が、どの財産を、どれだけ、どのように相続するのかを明確に記述しておかなければなりません。後で解釈の余地ができてしまうようなあいまいな書き方や、内容の書き洩らしなどがないように気を付けましょう。

遺産分割協議書は相続人の人数分作成する

遺産分割協議書は1通だけ作成するのではなく、相続人の数だけ作成しなければなりません。同じものを相続人の数だけ作成し、それを相続人各人が保管します。

被相続人と相続人全員の氏名・住所を記載する

遺産分割協議書の最後には、相続人全員の氏名と住所を記載し、実印を押印します。

まとめ


相続財産が基礎控除を下回る場合は、相続税の申告や納税を行う必要はありません。しかし、そのような場合でも、凍結された預貯金などの名義変更や相続登記など相続にまつわる多くの手続きには遺産分割協議書が必要となります。

遺産分割協議書には決まったフォームはありませんが、必ず記載しなければならない事項はいくつかあるため、作成に自信のない方は弁護士や司法書士などの専門家に依頼されることをお勧めします。

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