会社を相続させるためにはどうすべき?会社相続の方法と注意点について

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

親が経営していた会社を相続するためには、どうすれば良いかご存じでしょうか?

預金や不動産であれば名義変更をするだけで手続きは終わりますが、会社の場合はそんなに簡単には終わりません。

また、中小企業の株式は株式市場で売買していないため、今の株価がいくらなのか分かりません。では、どのように計算するのでしょうか?

会社の相続の考え方

はじめに、会社を相続する場合の考え方について、法人と個人事業の場合に分けて解説していきます。

法人事業の場合

法人を相続する場合は、会社の「株式」を相続します。株式を相続すると株主総会の議決権を得るため、取締役を選任することができるようになります。その結果、株主としての所有権と取締役としての経営権の両方を相続することになります。

個人事業の場合

個人事業の場合は、事業に関する資産や負債が相続財産となります。事業用に使われていた預貯金や売掛金、買掛金や借入金などを相続することにより事業承継が完了します。

関連記事:相続財産とは?相続税がかかる財産とかからない財産を税理士が解説

株式会社を相続する手順

上述のように会社を相続する場合は、相続人がいきなり代表取締役になるわけではありません。以下の手順に従って手続きを進め、最終的には筆頭株主兼代表取締役に就任します。

手順① 死亡したオーナーの保有株式を相続

はじめに、前会社オーナーが保有していた株式を、会社の後継者である子が相続します。

手順② 株式の名義変更

次いで、会社法133条1項に基づき、会社に対して株主名簿の名義変更を請求します。

株式名簿の変更が済むまでは第三者に対して株式を相続して株主になったことを主張できませんから、株式を相続したらできるだけ早く名義変更を請求するようにしましょう。

手順③ 株主総会で取締役に選任

オーナーであった前社長が亡くなると取締役に欠員が出るため、新たに取締役を選任しなければなりません。取締役の選任は株主総会の決議事項のため、臨時株主総会を開催して取締役の選任を行います。臨時株主総会において出席株主の過半数の同意が得られれば、後継者である子が新たに取締役に就任します。

このように3つの手順を経て、後継者である子が会社オーナー兼取締役の地位を引き継ぐことになります。

会社相続の生前による対策

親から子へ、会社をできるだけスムーズに相続させるためには、親が亡くなる前にある程度の対策をしておく必要があります。そのための生前対策にはいくつかの方法がありますが、最も大切なのは以下の2つです。

生前対策① 株価対策

会社を相続する場合、株式の評価額は会社の財務状況に大きく影響を受けます。たとえば、創業後何十年にもわたって利益をコツコツと内部留保してきた会社や、資産に占める土地の割合が高い会社などは、株式の評価額が信じられない程高くなる可能性があります。

これをそのまま放置しておくと、最終的に株式を相続するために莫大な相続税を支払わなければならなくなります。それを回避するためには、定期的に自社株の株価をチェックし、株価が常に適正な範囲内にとどまるようにコントロールしておかなければなりません。

生前対策② 株式を集中させる

子が会社を相続した後で安定した状態で会社経営をさせるためには、できるだけ多くの株式を後継者である子供に相続させる必要があります。

そのためには、相続によって株式が分散してしまわないように、生前贈与や遺言書などを活用して後継者に株式が集中するように準備をしておかなければなりません。

また、相続前の段階で株式が分散している場合は、既存の株主からできるだけ株式の買い取り等を行い、生前のうちに可能な限り自分の株式の保有比率を高めておかなければなりません。

株式の相続にかかる相続税はどのくらい?

株式にかかる相続税を計算する場合は、まず株式の相続税評価額がいくらになるのかを計算しなければなりません。株式の相続税評価額の算定方法は、上場株式と非上場株式ではことなるため、それぞれのケースに分け、どのように評価していくのかを見てみましょう。

上場株式の場合

上場企業の株式は毎日市場で売買されているため、特別な評価をする必要はありません。ただし、株価は常に変動しているため、どのタイミングの株価を評価額とするのかは、以下の4つから任意で選ぶことができます。

  • 相続開始日の最終価格
  • 相続開始日が属する月の毎日の最終価格の平均
  • 相続開始日が属する月の前月の毎日の最終価格の平均
  • 相続開始日が属する月の前々月の毎日の最終価格の平均

この4つの価額を比較し、最も低い価額を上場株式の評価額とします。

非上場株式の場合

非上場企業の株式は市場で売買されていないため、上場企業のように現在の株価がいくらなのかは分かりません。したがって、株価を評価しなければなりません。

非上場株式を評価する場合は、誰がその株式を取得するかによって評価方法がことなります。会社を支配する同族株主グループに属している後継者が相続する場合は、会社の規模に応じて以下の3つの評価方法のどれかで評価します。

  • 類似業種批准価額方式
  • ・・・評価する対象の会社と同じ業種の上場企業を比較して株価を評価します

  • 純資産価額方式
  • ・・・会社を解散させた場合株主に返ってくる金額を計算し、それを株価とします

  • 併用方式
  • ・・・上記の2つをブレンドした計算方法で株価を評価します

具体的には、まず評価する会社の規模を従業員数や売上高・総資産額などを使って判定し、5段階に分類します。5段階のうち会社の規模がもっとも大きいと判定された会社であれば、「類似業種批准価額方式」と「純資産価額方式」のどちらかを選択することができます。

会社が2番目に大きい規模であれば、「純資産価額方式」もしくは「併用方式」のどちらかを選択します。3番目以降も評価方法は2番目の場合と同じですが、 併用方式を選択する場合は会社の規模が小さくなればなるほど類似業種批准価額方式の比率は低くなり、純資産価額方式の比率が高くなります。

ちなみに、類似業種批准価額方式による株式の評価は純資産価額方式による株式の評価よりも評価額が低くなる傾向にあるため、多くの場合「併用方式」が評価方法として採用されています。

会社相続において注意が必要な場合

最後に、会社を相続する時に注意すべき点を、5つのケースに分けてお話しします。

株式相続を複数人が主張する場合

遺言書で後継者を指名して株式を相続させない場合は、原則として法定相続人が法定相続分に応じて財産を取得していくことになります。会社の株式もこの原則にしたがって各相続人が相続することになると会社の株式が分散してしまうため、株主総会で議決をまとめるのが難しくなり、後継者の会社経営が難しくなってしまいます。

こういった事態を防ぐためには、生前贈与と遺言書を活用し、後継者が株式の大部分を取得できるように準備を進めておかなければなりません。

会社の株式を売却する場合

上場企業の株式を相続した場合はいつでも好きな時に売却することができますが、非上場株式を相続した場合は市場で売ることができません。しかも、多くの非上場株式には譲渡制限が付されているため、売却するためには株主総会の決議により承認を得なければなりません。

会社に多額の借金がある場合

会社に多額の借金がある場合、債務超過であれば株式の相続税評価額は最終的に0円となります。したがって、株式を相続しても相続税は課税されませんが、会社の代表者は借入金などの債務の連帯保証人となっている場合が多いため、財産を相続することにより借入金などのマイナスの財産も同時に相続することになってしまいます。

株式も含めたプラスの財産の総額と比較し、借入金などのマイナスの財産の方が多い場合は、相続放棄も選択肢の一つとして考えておいた方が良いでしょう。

医療法人・有限会社を相続する場合

医療法人を相続する場合は、出資持ち分を後継者が相続することにより医療法人の相続となります。ただし、株式会社とは違い医療法人の場合は、後継者が医師免許を持っていないケースも考えられます。そうなると医療法人としての要件を欠いてしまう可能性もあるため、その点を注意しなければなりません。

また、有限会社を相続する場合は、設立時の出資金を後継者が相続することにより有限会社を相続することができます。

参考:株式を相続したらどうなる?株式の相続方法や節税方法について

まとめ

会社を相続するためには、株式や出資金を相続しなければなりません。しかし、生前に何の対策もしておかないと相続税評価額が高くなってしまい、莫大な相続税を支払うことになりかねません。

そうした事態を避けるためには、さまざまな方法で生前対策をしておく必要があります。会社相続に関する生前対策について興味がある方は、できるだけ早い段階から税理士などの専門家に相談し、着実に進めていくことをお勧めします。

相続時の税金に関する悩みはマルイシ税理士法人へ相談

会社を後継者に相続させるためには、シミュレーションに基づく生前対策は欠かせません。こうしておくと、場合によっては何億円もの節税につながることもあるため、できるだけ早い段階からじっくりと時間をとって対策を練りたいものです。

また、事業承継税制をうまく活用すれば相続時の納税額が猶予され、最終的には納税が免除される可能性もありますが、これにはいくつかの要件を満たさなければならないため、いずれにしても対策は必要となります。

マルイシ税理士法人には不動産や相続に関する業務を専門的に行っている税理士が在籍しており、会社の相続に関する経験や実績が豊富なため、専門的な見地からシミュレーションに基づくさまざまな提案をすることができます。

会社の相続に関して知りたいことや不安がある方は、マルイシ税理士法人の無料相談をぜひお気軽にご利用ください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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