相続財産管理人とは?申し立てが必要なケースや選任の流れ・必要書類・費用について

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

故人の相続財産を引き継ぐ法定相続人がいないときは、遺産を清算する「相続財産管理人の申し立て」が必要です。

申し立てをするのは、債権がある人、特別縁故者、特定遺贈を受け る人など。

これらの人たちが申し立てをしやすいよう、相続財産管理人の申し立ての基本や流れなどをわかりやすく解説していきます。

相続財産管理人とは?

相続財産管理人とは、引き継ぐ先のない故人の「相続財産」を清算する役目を担っています。相続財産管理人を担当するのは、関係者からの申し立てを受けた家庭裁判所が選任した弁護士や司法書士などです。

相続財産管理人の業務

  • 法定相続人の有無を調査する
  • 債権者に対して債権の届け出をするよう公告する
  • 未確認の財産や債権がないか調査する
  • 相続財産を現金化する換価する(必要がある場合)
  • 債権者への弁済を行う
  • 受遺者への支払いを行う
  •  など

業務例

一般の人には、相続財産管理人がどのような形で遺産を整理していくのかイメージしにくい面もあると思います。もちろん清算の中身はケース・バイ・ケースですが一例をご紹介します。

たとえば、最近は相続放棄されたマンションが放置され、管理費が長期にわたって滞っているケースもあるようです。その場合、債権者である管理組合が申し立てた相続財産管理人がマンションを売却した代金から弁済するといった流れがあり得ます。

あるいは、故人の自宅が放置されているケースでは、現地を訪ねて郵便物をチェックしたり、役所や近隣をヒアリングしたりといった調査を実施。把握していない遺産や債務がないかを念入りに調査して、適切に処理するといった手間のかかる業務が考えられます。

最近は相続財産管理人の選任数が増えている

なお、近年は未婚者の増加や少子高齢化の影響を受け、相続財産管理人の選任数が増加傾向にあります。具体的な実数については日本経済新聞(2019年7月7日付)では「2000年の7,639人から、2017年の2万1130人へと約2.7倍に増加した」と報じています。

相続財産管理人の選任が必要なケース

相続財産管理人が必要になるのは、主に次の3つのケースです。

  1. 法定相続人が不在で、なおかつ遺言がないとき
  2. 法定相続人全員が相続放棄をしたとき
  3. 法定相続人が不在で、遺言が遺されているものの特定遺贈のケース

など

相続財産管理人の選任が必要な人(具体例)

相続財産管理人の選任を必要とするのは、以下の人たちが考えられます。

  • 故人に債権がある人
  • 相続財産の管理者
  • 特別縁故者
  • 特定遺贈を受けた人

上記のほか、故人が生前から「遺産が国庫に帰属すること」を望んでいた場合は検察官が申し立てをするケースもあります。

故人に債権がある人

故人にお金を貸していた人は、相続財産を清算した後でなければ返済してもらえません。とくに多額の債権がある人、あるいは、そのお金がなければ事業や生活が苦しくなってしまう人は速やかに相続財産管理人の申し立てをする必要があるでしょう。

相続放棄者

「えっ?なぜ、相続放棄したのに遺産の管理をしなければならないの?」と疑問に思う人もいるかもしれません。しかし、相続を放棄した後も、遺産の管理は法定相続人(になるはずだった人)の役目なのです。

もし、「相続放棄をしたから」という理由で遺産を放置してしまうと、故人に債権がある人や被害を受けた関係者(例:未払い家賃のある家主)などから訴えられる可能性もあります。

特別縁故者

特別縁故者とは、故人が生前の間に深い関係性のあった人のことです。代表的なのは内縁の妻や夫でしょう。また無報酬で献身的な介護をしていた人や法定相続人の範囲ではない親族なども考えられます。こういった人たちは相続財産管理人の申し立てをすることで遺産の一部を受け取れるケースもあります。

特定遺贈を受けた人

特定遺贈とは、法定相続人以外の受遺者が「受け継ぐ財産を具体的に指定されている」ことです。 このケースでは「債権者への弁済を行ったあとでなければ相続財産を受け取ることができない」というのが基本的な考え方です。そのため、相続財産管理人の申し立てをする必要があります。

相続財産がない場合でも申し立ては必要?

なお、故人に法定相続人がいない場合でも、相続財産が見当たらない場合は相続財産管理人の申し立ては不要です。あくまでも、相続財産があって、なおかつ法定相続人がいない場合のみ、相続財産管理人の申し立てが必要となります。

たとえば、「故人に債権がある人」でも、遺産がなければ弁済してもらえません。つまり相続財産管理人の申し立ては無意味ということになります。そのため、申し立てを検討するときは「故人にある程度の遺産があるか」を考慮するのが望ましいでしょう。

相続財産管理人の選任の申立ての流れと必要書類

相続財産管理人の選任の申立ての流れ

法定相続人がいないことを確認する

相続財産管理人を選任は、「法定相続人がいないこと」を前提にしています。そのため、申し立てをする前に法定相続人がいないことをしっかり確認する必要があります。

相続財産管理人の選任の申し立て

法定相続人の不存在を確認できた後、(被相続人の最終住所地)の家庭裁判所にて「相続財産管理人選任の申し立て」を行います。

申し立て後の大まかな流れ

相続財産管理人の選任申し立て後は、次の1〜7の流れで「相続人不存在の確定」や「遺産の清算」などに進んでいきます。相続財産管理人の申し立てをしてから、遺産が清算されるまでには期間がかかります。理由は、公告や催告のときに一定期間を要するからです。
そのため、とくに弁済を急ぐ人は速やかに申し立てをするのが賢明です。

  1. 相続財産管理人選任の公告(期間:2ヵ月)
  2. 債権者および受遺者の請求申し出の催告(期間:2ヵ月以上)
  3. 法定相続人捜索の公告(期間:6ヵ月以上)
  4. 相続人の不存在が確定
  5. ※特別縁故者がいない場合は、下記の5と6のステップはありません。

  6. 特別縁故者の相続財産分与の請求 ※不存在の確定後3ヶ月以内に行う
  7. 特別縁故者へ遺産の引き渡し
  8. 清算後、余った財産は国庫へ帰属

相続財産管理人の選任の申立てに必要な書類

申立書

標準的な申立添付書類

  • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
  • 被相続人の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
  • 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいらっしゃる場合,その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
  • 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
  • 被相続人の兄弟姉妹で死亡している方がいらっしゃる場合,その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
  • 代襲者としてのおいめいで死亡している方がいらっしゃる場合,そのおい又はめいの死亡の記載がある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
  • 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
  • 財産を証する資料(不動産登記事項証明書(未登記の場合は固定資産評価証明書),預貯金及び有価証券の残高が分かる書類(通帳写し,残高証明書等)等)
  • 利害関係人からの申立ての場合,利害関係を証する資料(戸籍謄本(全部事項証明書),金銭消費貸借契約書写し等)
  • 財産管理人の候補者がある場合にはその住民票又は戸籍附票

引用「裁判所:相続財産管理人の選任

相続財産管理人を選任する際の費用

相続財産管理人を選任する際の費用としては、「申し立て費用」が必ずかかります。また、相続財産が少ない場合などには「予納金」が必要になるケースもあります。

申し立て費用

相続財産管理人選任の申し立てのための費用は次の通りです。

  • 収入印紙(申立書に貼付用):800円
  • 郵便切手(連絡用):1,000円程度
  • 官報公告料:4,000円程度 
  • など

予納金

遺産の清算を担当する相続財産管理人には、報酬と経費が支払われます。これらのお金は原則、遺産を現金化して支払われます。ただし、相続財産が少ない場合などには事前に数数十万円〜100万円程度のお金を納めなくてはなりません。

この納めるお金を「予納金」と呼びます。なお、処理が終わった後に予納金に余りがある場合には返金されます。

まとめ

さて最後に、相続財産管理人を申し立てるときの注意ポイントです。申し立ての手続き自体は複雑でないため、一般の人でも比較的、進めやすいと思われます。

ただし、「故人が出生してから死亡するまで」のすべての戸籍謄本類を取り寄せるには手間がかかります。

また、被相続人の最終住所地の家庭裁判所にて、申し立てをするのも面倒な部分です。多忙な人は、司法書士などに依頼するという手もあります。司法書士には職権があるため、戸籍謄本類を集める作業も含めてお願いできます。

もうひとつの注意ポイントは、相続財産管理人の申し立てから清算までにはかなりの期間を要することです。相続人の不存在が確定するまでの公告・催告期間だけでも10ヵ月以上はゆうにかかります。それを見越した上で早めに申し立てをすることが何より大切です。

要注意!特別縁故者や特定遺贈を受けた人は「相続税の対象」

相続を専門分野にする税理士として補足をすると、相続財産管理人が清算した後、遺産を受け継いだ「特別縁故者」や「特定遺贈を受けた人」は相続税の対象になります。ただし、課税されるのは遺産の額が基礎控除額を超えた場合のみです。

基礎控除額の計算式は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」ですが、今回のケースですと「法定相続人は0人」ということが確定しているため、3,000万円が基礎控除額になります。また、特別縁故者の相続税の計算方法は、法定相続人がいるケースとは違うことにも留意しておきましょう。

基礎控除額を超えるような相続税の支払いが予想される場合は、相続財産管理人の選任を申し立てた後など、早めに税理士に相談しておくと安心です。顧問税理士がいらっしゃらない人は、私が所属している「マルイシ税理士法人の無料相談」をお気軽にご利用ください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

税理士紹介はこちら

  • ページタイトルと
    URLがコピーされました