「故人の出生から亡くなるまでの戸籍」を取得する方法とポイント

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相続手続きのときに重要な書類のひとつが「故人の出生から亡くなるまでの戸籍」です。本稿では、直近の戸籍ではなく「出生から亡くなるまでの戸籍」を取得しなければならない意味や実際の取得方法などをわかりやすく解説します。

相続手続きで戸籍謄本が必要な理由とケース

《この項目のまとめ》
相続手続きで故人の戸籍謄本が必要な理由は、「法定相続人が誰か」を明らかにするためです。また、預金口座の名義変更、相続税の申告などの際に故人や法定相続人の戸籍謄本が必要になります。

戸籍謄本が必要な理由:法定相続人が誰かを確認

そもそも戸籍謄本とは、その人の名・生年月日・父母・本籍地などの基本情報に加えて、出生・婚姻・養子縁組などの事実を記載したものです。ちなみに、主な戸籍には次の種類があります。

  • 戸籍謄本:戸籍に記載されている全員の身分事項を証明するもの
  • 戸籍抄本:戸籍に記載されているうち、特定の人の身分事項を証明するもの
  • 除籍謄本:本人が亡くなって除籍された旨が記載されたもの

相続手続きのときに、除籍謄本(便宜上、本稿では戸籍謄本と呼びます)が必要な理由は「相続財産を受け継ぐ権利のある法定相続人が誰か」を確認するためです。戸籍謄本を確認することで、現在の配偶者や子はもとより、現在の家族が把握していない、前の配偶者の子や養子の存在なども明らかになります。

相続で戸籍謄本が必要となるケース:預金口座の名義人変更、相続税の申告など

戸籍謄本は、相続手続きのさまざまなケースで必要になります。主なものは次の通りです。

  • 預金口座や証券口座の名義変更をするとき
  • 相続税を申告するとき
  • 相続放棄をするとき
  • 限定承認をするとき
  • 不動産の相続登記をするとき

被相続人と相続人それぞれの戸籍謄本が必要

相続手続きで必要となる戸籍謄本は次の2つです。上記で挙げたケースの大半でこの両方が必要になります。

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 相続人全員の現在の戸籍謄本

ただし、すべてのケースでこれらが必要になるわけではありません。たとえば、相続放棄をするときは、放棄をする相続人の戸籍謄本のみを提出します。また、遺言書があるなら被相続人の死亡が記載された戸籍謄本のみでよいときもあります(例:預金口座の名義変更や不動産の相続登記など)。

関連記事:相続登記とは?不動産・土地の名義変更の方法や手続き・必要書類を解説

本籍がいくつもある場合はさかのぼる必要がある

注意していただきたいのは、相続手続きにおいて必要となることが多いのは、「被相続人が亡くなった時点の戸籍」ではなく、あくまでも「被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(=除籍謄本・改製原戸籍謄本)」ということです。

つまり、故人の過去の本籍がいくつもある場合は、現在の本籍地から以前の本籍地を調べ、そこからさらに以前の本籍地をさかのぼるという作業が必要ということです。それにより、すべての法定相続人を確定させることができます。

相続人全員の戸籍謄本は「原戸籍・改製原戸籍」が必要なことも

相続人全員の戸籍謄本は「法定相続人の確認」のときに使います。ただし、下記のようなケースでは戸籍簿の切り替えに伴い「原戸籍・改製原戸籍」が必要となることもあります。

  • 本籍地を変更したとき
  • 婚姻のために別戸籍に編入したとき
  • 養子縁組のために別戸籍に編入したとき
  • 法律による戸籍簿の改製があったとき
  •  など

※被相続人の戸籍謄本などで確認できる場合は、「原戸籍・改製原戸籍」は不要のケースもあります。

相続手続きで重要な「被相続人の戸籍謄本」の取得方法

《この項のまとめ》
戸籍謄本は、本籍地の役所(市区町村など)に請求するものです。請求方法としては「役所窓口での請求」「役所へ郵便で請求」の2つの方法があります。

方法1「役所の窓口で請求」:近隣に住んでいる人におすすめ

被相続人の本籍地のある役所(または過去に本籍地のあった役所)を直接訪ねて、戸籍謄本を取得する方法です。

請求者が本籍地の近隣に住んでいるなら、こちらがスムーズです。不明点があった場合などに係員に相談することもできます。たとえば、交付請求書への記入などで不明点があれば、係員に「出生から死亡までの戸籍謄本が必要」と伝えるとよいでしょう。

戸籍謄本を取得する際に必要となるものは次の通りです。

  • 交付請求書(役所で用意している書式)
  • 請求者の身分を証明するもの(運転免許証やマイナンバーカードなど)
  • 印鑑(認め印でも可)
  • 手数料(現金)

※代理人が戸籍謄本を取得する場合は、上記に加えて委任状と身分を証明するものが必要

手数料は、戸籍謄本/1通450円、除籍謄本および改製原戸籍謄本/1通750円です。窓口で現金で支払います。

方法2「役所へ郵便で請求」:遠方に住んでいる人におすすめ

被相続人の本籍地のある役所(または過去に本籍地のあった役所)を直接訪ねるのが難しい場合は、郵便で取得する方法もあります。下記の書類を対象の役所に送付すれば対応してくれます。

  • 交付請求書(役所で用意している書式)
  • ※役所の公式サイトからダウンロード可

  • 請求者の身分を証明するもののコピー
  • 手数料(定額小為替)
  • 返信用の封筒(切手を貼りつけ)

手数料は窓口で手続きをしたときと同様、戸籍謄本/1通450円、除籍謄本および改製原戸籍謄本/1通750円です。ただし、郵送の場合は定額小為替で納めます。なお、定額小為替は郵便局で購入することが可能です。

返信用の封筒には、請求者の名前と住所を予め記入して送るとよいでしょう。切手は、取得する戸籍の通数が多い場合は、足りなくなる可能性もあります。心配であれば多めの額の切手を貼って送るのが無難です。

※一例では、普通郵便を希望するなら140円(規格内・100グラム以内)の切手でも足りるかもしれないが、念のため210円(規格内・150グラム以内)の切手を貼りつけておくなど

戸籍謄本の取得・提出の負担を軽減する「法定相続情報証明制度」

《この項のまとめ》
故人の「出生から死亡までの戸籍謄本」は預金口座の相続ほか、相続税を申告するとき、不動産の相続登記をするときなどに提出を求められます。この負担をなくす制度が「法定相続情報証明制度」です。提出先が極端に多いなどのケースでは、この制度を検討するのも一案です。

戸籍謄本を何度も提出・取得しなければならない理由

戸籍謄本や除籍謄本はかなりのボリュームの束になることが多いため、それを抱えてあちらこちらに出向くのは相続人の大きな負担になります。仮に金融期間だけで考えても、複数の口座を持っているケースがほとんどだと思いますので、何度も提出する必要があります。また、必要な通数を取り忘れたときは再度、故人の本籍地の役所へ請求しなければなりません。

法務局に申請して認められた親族図のみが有効

こういった相続人の負担を解消する制度が「法定相続情報証明制度」といえます。これは、被相続人の戸籍をもとに相続に関連する親族図を作成するものです。この親族図を金融機関などに提出すれば「故人の出生から死亡までの戸籍謄本」は不要になります。

ただし、この親族図は「あればよい」という類いのものではありません。適切な体裁・内容で作成したものを法務局に申請して認められれば、偽造防止措置が施された紙に印刷したうえで交付されます。一般の人では対処が難しいため、弁護士や司法書士などの専門家に依頼するのが無難です。

相続手続きをはじめた段階で、まだ税理士が決まっていないなら要注意!

相続を得意とする税理士として補足があります。これから被相続人の戸籍謄本をとろうとしている人は、相続手続きをこれからはじめる、あるいは着手したばかりというケースが多いのではないでしょうか。

戸籍謄本を取得するだけでも大変ですが、遺産分割協議がある場合や相続税を納める場合などは、さらに大きな労力が発生します。とくに相続税を納める人は期限があるため大変です。着手段階で税理士が決まっていないのであれば、早めに相談すべきでしょう。

相続が発生してまだ税理士に相談していない人は、マルイシ税理士法人までお気軽にご相談ください。不動産も専門分野ですので、遺産に不動産が含まれる相続や不動産売却を伴う相続でもお役に立てます。

関連記事:遺産相続の手続きの流れとは?手続きの方法・期限・必要書類を解説

まとめ

相続が発生したときにしっかり認識したいのは、「故人の出生から亡くなるまでの戸籍」がないと、ほとんどの相続手続きを進められないという事実です。そのため、相続が発生した時点で戸籍の取得を「最重要かつ急ぎでやるべきタスク」に仕分けするべきなのです。

これを怠って戸籍取得を「後回しにするタスク」にしてしまうと、相続手続き全体の進捗が遅れることになります。とはいえ、相続人は被相続人が亡くなった直後にやることが多いため、なかなか着手できないこともよくあります。その場合は、弁護士や司法書士などの力を借りて進めるべきでしょう。

「故人の出生から亡くなるまでの戸籍」取得をご自身でするのか、専門家に依頼するのか、この判断も早めにするのが理想です。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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