相続手続きで必要な残高証明書とは?口座調査から取得方法まで解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

「残高証明書」は、相続税を納めるなら早めに取得すべき重要な書類です。

合わせて、相続財産を確認してみないと「相続税を納めるのかわからない」という人も残高証明書を早めに取得するのが無難です。

この記事では、残高証明書の取得方法から取得の際の注意点まで解説します。

相続手続きに残高証明書が必要な理由とは?

相続用の残高証明書は、遺産分割協議や相続税の申告に必要な書類です。相続人であれば誰でも残高証明書の取得が可能です(ただし、相続人のうちの1人に限る。代理人でも可)。

相続用の残高証明書とは?

残高証明書とは「指定した日付の残高」を証明する、金融機関が発行する書類です。相続用の残高証明書は、被相続人が亡くなった時点の口座残高を証明する目的で使われています。

相続用の残高証明書が必要となるケース

具体的に、相続用の残高証明書が必要になるのは次の3つのケースです。

  1. 被相続人の預金口座にネットバンクのものがある
  2. 遺産分割協議をするのに残高証明書が必要
  3. 相続税の申告をするのに残高証明書が必須

上記のうち、とくに「3.相続税の申告をするのに残高証明書が必須」は重要です。1と2は残高証明書が絶対に必要というわけではありませんが、3 は「必須」になっています。それぞれの内容を詳しく見てみましょう。

1.被相続人の預金口座にネットバンクのものがある

ネットバンクは現物の預金通帳が存在せず、ネット上の情報で残高を確認する仕組みです。そのため、相続人同士で残高を共有するためなどの目的で残高証明書の取得を依頼することがあります。

2.遺産分割協議をするのに残高証明書が必要

預金通帳に記載されている取引履歴だけでは、その後に入金・出金がある可能性もあります。そのため、残高証明書を取得して被相続人同士で情報を共有することがあります。

3.相続税の申告をするのに残高証明書が必要

相続税の申告をするとき、金融資産の内容を証明する書類として税務署に残高証明書を提出しなければなりません。ちなみに、相続税を申告する必要があるのは、相続財産の評価額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えている場合です。

相続用の残高証明書を取得できるのは誰?

相続人であれば、誰でも残高証明書の取得が可能です。このとき、ほかの相続人の同意や委任状などは不要です。ただし、取得できるのは相続人のうちの1人に限ります。また、残高証明書の取得は代理人(親戚や士業の人など)や遺言執行者も可能です。

預金口座の調査方法とは?

店舗型の金融機関とネットバンクでは、預金口座の調査をする難易度と方法が違います。とくにネットバンクは預金通帳がないので見逃すケースがあります。

被相続人の預金口座を調査することはとても大事な行為です。なぜなら、遺産分割協議や相続税の納税が終わった後に新たな預金口座が見つかると、相続財産の算定がやり直しになってしまうからです。

預金口座の調査方法には次の2つがあります。

  • 店舗型の金融機関の預金口座の調査方法
  • ネットバンクの預金口座の調査方法

店舗型の金融機関の預金口座の調査方法

メガバンクや地銀など店舗型の金融機関であれば、被相続人名義の預金通帳とキャッシュカードなどを探してみましょう。

注意点としては、ほとんど残高のない預金通帳も念のため記帳してみることです。実際の残高と違う可能性もあります。また、通帳が見当たらず、キャッシュカードだけ見つかった場合も残高を確認してみましょう。

金融機関のなかでも、ゆうちょ銀行の場合は「貯金等照会書(相続用)」を窓口に提出すると被相続人の預金口座が存在するかを確認できます。預金口座の記号番号がわからない場合も教えてくれます。なお、この照会書は郵便局の窓口でもらえます。

ネットバンクの預金口座の調査方法

最近では、ネットバンクや無通帳口座など、現物の預金通帳を発行しない金融機関も増えています。こういったタイプの金融機関の預金口座を見逃す可能性もあるため、念入りに調べることが大事です。

大半のネットバンクは預金通帳がなくても、キャッシュカードは発行しています。そのため、はじめに着手したいのはキャッシュカードを探すことです。ただ、キャッシュカードを紛失しているケースや、なかにはキャッシュカードのない金融機関もあるので、他の方法で預金口座を探す必要もあります。

具体的には、以下の方法が考えられます。

  • 過去に届いた郵便物をチェックする
  • パスワードのもとになる専用カードがないかチェックする
  • スマホのアプリを確認する
  • パソコンの検索履歴やメールを確認する など

被相続人がご高齢の場合でも「ネットバンクなど使っているわけがない」と決めつけないのが無難です。とくに上場株式や投資信託などで資産運用をされていた人は、それに紐づくネットバンクを利用していた可能性もあります。

残高証明書を取得する方法と流れ

残高証明書の取得の手続き自体は難しいものではありません。金融機関に必要書類を提出することで取得できます。取得までの流れは次の3ステップです。

  1. 金融機関の窓口で申請手続きする
  2. 必要書類を提示する
  3. 残高証明書を受け取る

ステップ1.金融機関の窓口で申請手続きする

一般的な店舗型の金融機関であれば、取引店の窓口などで手続きができます。また、ネットバンクであればカスタマーセンターに電話で申し込み、発行依頼書と必要書類を郵送することで手続きができます。

ステップ2.必要書類を提示する

残高証明書の発行を金融機関に依頼するには、次の3つの書類を提示しなければなりません。

  1. 被相続人が亡くなった事実を確認できる戸籍謄本など
  2. 残高証明書の発行依頼者が相続権利者であることを示す戸籍謄本・審判書・委任状など
  3. 残高証明書の発行依頼者の印鑑証明書(発行から6ヵ月以内の原本)

※金融機関によっては、実印が必要なこともあります。

上記のうち、1と2は法務局が発行する「法定相続情報一覧図の写し」を提出すれば原則提出しなくても大丈夫です。

ステップ3.残高証明書を受け取る

店舗型の金融機関の預金口座なら、(通帳を発行する)取引店での手続きであればすぐに残高証明書を受け取られるケースもあります。取引店以外の店舗での手続きの場合、日数を要するケースもあります。ネットバンクの場合、必要書類の内容に間違いがなければ後日、郵送されてきます。

残高証明書を取得する際の注意点

相続用の残高証明書の一番の注意点は預金口座の凍結です。残高証明書の取得を金融機関に申し込むと、口座が凍結されお金が引き出せなくなります。相続人であれば「相続預金仮払い制度」を利用することで、しばらくの間、必要なお金をまかなうこともできます。また、相続用の残高証明書は「被相続人の亡くなった日のもの」を取得してください。

注意点1.申請をすると口座が凍結する

相続用の残高証明書の取得を申し込むと「名義人が死亡した事実」が金融機関に確認されます。それにより、その預金口座は凍結されます。

凍結された預金口座はお金が引き出せなくなります。葬儀代が足りない、あるいは、名義人が世帯主で当座の生活費が足りなくなるといったときは「相続預金仮払い制度」の利用を検討してみましょう。

さらに凍結された預金口座は、公共料金などの引き落としもできなくなります。引き落とし口座の変更などの手続きを速やかに行いましょう。

注意点2.死亡日の残高証明書を取得する

相続用の残高証明書は、「亡くなった日の日付」で取得することが重要です。なぜなら、亡くなった日の残高が相続税評価額になるからです。

注意点3.金融機関によって手数料や期間が異なる

残高証明書を取得するときには、金融機関ごとに手数料を支払わなければなりません。たとえば、5つの銀行の預金口座の残高証明書を取得するなら、5行分の手数料が必要ということです。

残高証明書の手数料の設定は、金融機関ごとに違います。一例では、みずほ銀行の場合は1通あたりの手数料は880円、楽天銀行の場合は524円となっています。
※いずれも消費税込の手数料。2021年6月12日現在、公式サイトで提示されている手数料です。

残高証明書が申請からどれくらいで受け取られるかは、金融機関ごとに違います。目安としては1〜2週間程度と考えておけばよいでしょう。

注意点4 .相続税申告には時間の制限がある

残高証明書の取得の手続き自体は、それほど難しいものではありません。ただし、相続税申告までの全体のスケジュールを考えると残高証明書の取得手続きを、なるべく早く進める必要があります。なぜなら、相続税の申告は、原則として相続から10ヵ月以内にしなければならないという規定があるからです。

※相続税の申告期限は「被相続人が亡くなった事実を知った日の翌日から10か月以内」です。

関連記事:遺産相続の手続きの流れとは?手続きの方法・期限・必要書類を解説

まとめ

ここでは、遺産分割協議や相続税の申告などに必要な「残高証明書の取得」について解説してきました。とくに重要なポイントは次の通りです。

被相続人が亡くなった時点の金融資産を証明するには「残高証明書」が必要です。相続人であれば、金融機関の窓口に必要な書類を提出すれば取得できます。申し込みから取得までの期間は、1〜2週間程度ですが即日発行されることもあります。

相続税の算定をするためのファーストステップは、相続財産を正確に把握することです。残高証明書の取得で手間取ると、この相続財産の把握が進みません。それにより、その後の相続財産の算定や遺産分割協議などのスケジュールが押してしまいます。

「預金口座が多くて残高証明書をとるのが大変」「相続税の納税をなるべくスムーズに行いたい」という人は、報酬はかかりますが、残高証明書の取得の段階から司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

税理士紹介はこちら

  • ページタイトルと
    URLがコピーされました