死後離婚とは?相続との関係を不動産相続専門の税理士が解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

死後離婚は一般的な離婚(生前離婚)とは異なり、夫婦間ではなく親族間との関係を解消するため制度ですので、制度内容をよく理解してから手続きするか決めてください。

死後離婚とは?

夫婦が健在中に離婚することを「生前離婚」、夫婦のどちらかが亡くなった後に行う離婚手続きを「死後離婚」といい、生前離婚と死後離婚はまったく別の制度です。

死後離婚は姻族関係を解消するための制度

死後離婚は、配偶者が亡くなった後に配偶者の血族と姻族関係を終了させる制度です。
死後離婚は法律用語ではなく、「婚姻関係終了届」を提出する手続きを一般的に「死後離婚」と呼んでいます。
姻族とは結婚したことで親族になった配偶者血族をいい、義理の両親や配偶者の兄弟姉妹など、配偶者の三親等内までの人が親族に該当します。
姻族関係は配偶者が亡くなった場合でも継続するため、義理の両親などとの親戚(姻族)関係を終わらせたい場合、姻族関係終了届の提出が必要です。

生前離婚と死後離婚の違い

生前離婚は、離婚手続きをした段階で夫婦関係は解消され、配偶者血族との姻族関係も終了します。
婚姻によって変更した名字(氏)は生前離婚をすると旧姓に戻りますが、婚姻中の名字をそのまま使いたい場合は、離婚後3か月に以内に手続きすることで名字の継続利用も可能です。
それに対し死後離婚は、配偶者血族との関係を終わらすための制度であり、死後離婚を行ったとしても、亡くなった配偶者との婚姻関係は解消されません。
また「姻族関係終了届」を提出しても自動で旧姓に戻ることはなく、旧姓を使用する場合は役所へ復氏届を提出する必要があります。

死後離婚を選択する人が増加している背景

死後離婚手続きを選択する人が増加している要因としては、核家族化や介護、お墓問題などが挙げられます。
昔は結婚すると片方の家族と生活を一緒にすることになり、配偶者が亡くなった後も義理の両親と引き続き生活することは珍しくありませんでした。
しかし近年は両親と同居する家庭は減少していますので、配偶者の死亡を機に姻族との関係を終了させたいと考える人が増えています。
また義理の両親の介護まで手が回らない場合や、自身が亡くなった際に相手の家族のお墓に入りたくないことなど、配偶者が亡くなったことを人生の転機とし、死後離婚を選択する人もいます。

死後離婚と相続の関係

家族が亡くなれば必ず相続は発生しますので、死後離婚を行った際の相続への影響についても理解しておきましょう。

死亡した配偶者の相続への影響

配偶者の相続が発生した場合、生存している配偶者は「相続財産」を取得する権利を有しています。
死後離婚は配偶者の血族との関係を終了させる手続きであり、配偶者との夫婦関係を終わらすものではないので、死後離婚をしても配偶者の財産を相続する権利は失いません。
また相続財産を取得した後に婚姻関係終了届を提出したとしても、相続した財産を返却する必要はないため、死後離婚が夫婦間の相続に影響することはありません。

残された子どもの相続への影響

死後離婚は生存している配偶者と、亡くなった配偶者血族との関係を終了させる手続きなので、残された子どもの相続へ影響することはありません。
たとえば夫が先に他界し、その後に義理の父の相続が発生した場合、子は夫の代わりに相続人(代襲相続人)になります。
配偶者は元々代襲相続人には該当しませんし、死後離婚を行ったとしても子の代襲相続権が失われることはないです。
なお遺言書を作成すれば、特定の人のみに相続財産を相続させることも可能です。
死後離婚は子どもの相続に直接関係はしませんが、配偶者血族との関係悪化により代襲相続人となった子へ、相続財産が渡らない措置が施されることは想定されます。

相続放棄する場合には別途手続きが必要

相続人は亡くなった人のプラス財産だけでなく、借金などのマイナス財産も相続することになります。
配偶者の残した財産がプラス財産よりもマイナス財産の方が大きい場合、相続放棄手続きを行い、相続しない選択をすることも可能です。
死後離婚は配偶者の血族との関係についての手続きであり、姻族関係終了届を提出しても配偶者の相続権を放棄したことにはなりません。
相続放棄手続きを行わないと、相続することを承諾したとみなされるため、相続放棄する際は死後離婚と合わせて、亡くなってから3か月以内に別途手続きを行ってください。

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死後離婚のメリット・デメリット

死後離婚は、メリットだけでなく注意すべきポイントもあります。
また姻族関係終了届を提出することで、変わる点と変わらない点もご確認ください。

死後離婚のメリット

死後離婚すれば配偶者血族との姻族関係を断ち切れるため、金銭トラブルを抱えている姻族がいる場合、事前に問題を回避することができます。
親族関係が継続していると、配偶者が亡くなった後でも義父母の介護を見ることを求められることも考えられますが、姻族関係が終了すれば他人になりますので、介護を明確に断ることができます。
また配偶者と死別後に再婚することは可能ですが、死別した配偶者の親族の存在が再婚のハードルとなることもあります。
そのような場合は、再婚する前に姻族関係終了届を提出し、亡くなった配偶者の血族との関係を清算することも可能です。

死後離婚のデメリット

死後離婚を行う際は、次の3点に注意してください。

<死後離婚の注意点>

  • 配偶者の血族との親族関係は終了する
  • 姻族関係を戻すことはできない
  • 婚家との関係が悪化する可能性が高い

民法では、直系血族および同居親族は互いに扶(たす)け合わなければならないと規定していますので、義父母と一緒に生活している場合、配偶者が亡くなった後の生活を力添えしてもらうことができます。
しかし死後離婚をすれば他人となるため、経済的な支援を仰ぐことは難しいです。
生前離婚は離婚後に再婚することも可能ですが、死後離婚の手続きを行った際は、親族関係を復活させることはできません。
親族関係を終了させることで、婚家との関係悪化を避けられず、法事などの行事では気まずくなります。
また子が義父母に良くしてもらっている場合、姻族関係を終了させると心情的に会うことが難しくなります。

死後離婚で変わる点・変わらない点

死後離婚を行った場合、変化する事項と変わらない事項があります。

<死後離婚手続きによる変化する・しない事項>

変化の有無 種類
死後離婚で変わる
  • 姻族関係の終了
  • 相互扶助の終了
死後離婚しても変わらない
  • 配偶者の相続は可能
  • 相続放棄は別途必要
  • 遺族年金の受給は可能
  • 名字は戻らない
  • 戸籍はそのまま
  • 子と義父母との関係

死後離婚で変化するのは、配偶者血族との姻族関係で、姻族関係終了届を提出すれば他人に戻ります。
一方で、死後離婚をしても配偶者の財産は相続できますし、遺族年金も受給できます。
また相続放棄するのであれば、死後離婚とは別に手続きをしなければならず、復氏届を提出しないと旧姓には戻りません。
戸籍は姻族関係終了届を提出したとしてもそのままですが、復氏届を提出した場合は、現在の戸籍から婚姻前の戸籍に入ることになります。

死後離婚の手続きの流れと必要書類

死後離婚の提出先は住所地または本籍地がある市区町村

死後離婚する場合、届出人の本籍地または、住んでいる場所の市区町村へ姻族関係終了届を提出してください。
届出人になれるのは生存している配偶者のみであり、義父母など姻族が姻族関係終了届を提出することはできません。
生前離婚は夫婦双方が直筆で署名し、離婚届を作成することになりますが、死後離婚の場合は生存している配偶者のみで作成できます。
そのため姻族の同意を得る必要はありませんし、提出して後に配偶者血族が姻族関係終了の事実を拒むこともできません。
また姻族関係届出書の提出期限はありませんので、死別後しばらく経過してから検討したり、自身の再婚を機に死後離婚手続きを行うことも可能です。

姻族関係終了届を提出する際の必要書類

死後離婚手続きで必要となる書類は次の通りです。

【死後離婚の必要書類】

  • 姻族関係終了届
  • 配偶者の死亡事実の確認できる戸籍謄本
  •  (戸籍全部事項証明書)

  • 届出人の戸籍謄本
  • 届出人の印鑑
  • ※本籍地に届出をする際は、届出人の戸籍謄本は不要です。

姻族関係終了届は各市区町村で入手可能であり、ホームページから届出書を取得できる自治体もあります。
戸籍謄本は、配偶者の死亡事実を記載したものを用意してください。
1つの戸籍謄本で配偶者と届出人の状況が確認できる場合、別々に戸籍謄本を用意する必要はありません。
死別後に届出人が再婚等をしていれば、戸籍が移っている可能性がありますので、その際は届出人の戸籍謄本を別に入手してください。

まとめ

生前中は夫婦で話し合いをしたり、生前離婚を選択することもできますが、配偶者に先立たれてしまうと夫婦関係は解消できなくなります。
死後離婚手続きをしても、配偶者の相続財産は取得できますし、遺族年金を受け取ることも可能です。
また平均寿命が延びている中、自身が高齢になっても義父母が健在であるケースもあり、老々介護も社会問題となっていますので、自身の生活を守るために死後離婚をする方法もあります。
ただ姻族関係終了届を提出すれば配偶者血族とは他人となるため、生活支援を仰ぐことはできなくなりますし、関係悪化は避けられません。
そのため死後離婚手続きを検討している方は、自身の家庭のケースにおけるメリット・デメリットを確認し、専門家に相談した上で決断することをオススメいたします。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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