【税理士解説】不動産(土地・建物)の相続はどうするべき?生前贈与と徹底比較

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

配偶者や子へ土地・建物を渡す手段は相続と生前贈与の2種類あり、どちらの方法を用いるかは、不動産の種類や相続人との関係性により異なるため比較検討が必要です。 本記事では相続税と贈与税の違いおよび、不動産の渡し方について解説します。

相続税と贈与税の違い

相続税は相続が発生した際、亡くなった人(被相続人)の財産に対して課される税金であり、生前贈与は贈与者が生前中に受贈者に財産を渡した際に課される税金です。
そのため双方の税金が一緒に課税されることはありません。

相続税の計算方法と税率

相続税の税額計算は相続人ごとではなく、被相続人の相続財産全体に対して税額計算を行い、その後各相続人が納める相続税を算出します。
相続財産から基礎控除額を差し引いた金額を課税遺産総額とし、課税遺産総額を法定相続分で分けた金額に対して税率を乗じ、それぞれで算出された金額を合計したものが相続税の総額です。
各相続人は取得した財産割合に応じて相続税を負担することになり、相続財産を1円も取得しなかった相続人は相続税を支払う必要はありません。

<たとえば>
相続財産が2億円、法定相続人が3人(配偶者、子2人)の場合、基礎控除額を差し引いた15,200万円を法定相続分で分け、それぞれに対応する税率を乗じます。
算出された相続税の総額(2,700万円)は、相続人が取得した財産の割合に応じて納めることになるため、相続財産の70%を相続した人の納税額は1,890万円(2,700万円×70%)です。

<相続税の計算の流れ>
相続財産の総額-相続税の基礎控除額(※)=課税遺産総額
課税遺産総額×法定相続分×税率=法定相続分に応じた相続税額
法定相続分に応じた相続税額の合計×相続人の取得割合=相続人が負担する相続税

※3,000万円+600万円×法定相続人の人数=相続税の基礎控除額



<2億円に対する相続税額(相続人が配偶者、子2人の場合)>

2億円-4,800万円=15,200万円
法定相続人 法定相続人 法定相続分に応じた金額
配偶者 1/2 15,200万円×1/2×30%-700万円=1,580万円
子A 1/4 15,200万円×1/4×20%-200万円=560万円
子B 1/4 15,200万円×1/4×20%-200万円=560万円
合計 (1,580万円+560万円+560万円)=2,700万円

【相続税の速算表】

法定相続分に応じた取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

贈与税の計算方法と税率

贈与税は、財産をもらった人(受贈者)が年間で受け取った贈与財産の合計額に対して課される税金です。
贈与税には110万円の基礎控除額があるため、年間贈与金額が110万円以内であれば贈与税は課されません。
基礎控除額110万円を超えた部分は贈与税の課税対象となり、「一般税率」または「特例税率」を用いて税額を算出します。
特例税率は、贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上(※1)の人が両親や祖父母など直系尊属からもらった財産(特例贈与財産)に対して適用される税率です。
※1 「18歳」とあるのは、令和4年3月31日以前の贈与については「20歳」となります。

一方、特例贈与財産以外の贈与(一般贈与財産)については、一般税率を適用して贈与税を計算します。

【一般税率の速算表】

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

【特例税率の速算表】

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

<1,000万円の贈与を受けた場合の一般税率と特例税率の計算式>
〇一般税率による贈与税の計算
1,000万円-110万円(基礎控除額)=890万円(課税価格)
890万円×40%-125万円=231万円(贈与税額)

〇特例税率による贈与税の計算
1,000万円-110万円(基礎控除額)=890万円(課税価格)
890万円×30%-90万円=177万円(贈与税額)

関連記事:相続財産とは?相続税がかかる財産とかからない財産を税理士が解説

不動産(土地・建物)は相続・贈与のどちらで取得すべきか?

土地・建物は、基本的に贈与ではなく相続により渡した方が負担する税金は少なくなることが多いです。

相続の方が税負担を抑えられる可能性が高い

不動産は評価額が大きく、1枚の土地を贈与する場合、贈与税の基礎控除額110万円以内に収まることは考えにくいため、贈与税を支払うことになります。
それに対し相続税は、相続人が3人なら基礎控除額は4,800万円と贈与税より控除額が大幅に高く、被相続人の財産が基礎控除額以内であれば、不動産を取得した際に相続税はかかりません。
また登記名義を変更した際に発生する登録免許税の税率は0.4%と低く、相続取得時に不動産取得税は課されないため、相続により土地建物を配偶者や子へ渡した方が税負担は抑えられます。

小規模宅地等の特例は相続税専用の制度

小規模宅地等の特例は、特定の用途に使用していた土地を相続した場合、土地の評価額を最大80%減額できる相続税専用の制度です。
節税効果は土地の価値が高いほど節税効果は上がり、自宅の敷地として使用している1億円の土地に対して小規模宅地等の特例を適用すれば、課税対象となる評価額を2,000万円まで圧縮することが可能です。
贈与税には土地の評価額自体を下げる特例はないため、小規模宅地等の特例を適用できる土地については相続により取得した方がいいでしょう。

配偶者の税額軽減で1億6千万円まで無税

相続人に配偶者がいる場合、「配偶者の税額軽減」を活用すれば、配偶者が取得する1億6千万円までの相続財産に対する相続税は全額控除できます。
遺産分割完了などの要件はあるものの、配偶者であれば原則利用できる制度なので、不動産を相続してもらいたい相手が配偶者であれば、配偶者の税額軽減の適用により相続税を支払わずに不動産を取得することが可能です。

不動産を生前贈与で引き継ぐべきケースとは?

トータルで考えると、生前贈与より相続で不動産を渡した方が税負担を抑えられる可能性は高いです。
ただ不動産の種類や目的によっては生前贈与するメリットはありますし、贈与税の制度を活用して節税する手段もあります。

一定の収入が見込める賃貸不動産

賃貸不動産により得た利益をそのまま貯めておくと、その金額も相続財産として相続税の課税対象となります。
しかし生前に賃貸不動産を贈与すれば、以後の不動産収入は受贈者のものとなり、相続税の対象からは除かれます。
相続税において評価額を減額できる小規模宅地等の特例には限度面積があり、自宅や事業用の敷地など複数の不動産を保有している場合、すべての土地に対して特例を適用できるわけではありません。
そのため収益が大きい賃貸不動産は、相続ではなく生前贈与した方が節税になるケースもあります。

不動産を特定の相続人へ引き継いでもらいたい場合

相続財産は遺産分割協議により相続人が取得する財産を決めますが、相続人同士で取得した財産が重複した場合、分割協議がまとまらないことも想定されます。
生前贈与は贈与者と受贈者が贈与行為に同意した場合に成立しますので、不動産を特定の相続人に引き継いでもらいたい場合は、相続ではなく贈与により渡すことも選択肢です。

贈与税の配偶者控除を適用できる場合

贈与税には、結婚して20年以上の夫婦を対象とした「贈与税の配偶者控除」の特例があります。
配偶者控除は、2,000万円までの居住不動産または居住不動産の購入資金の贈与が非課税になる制度です。
生前に自宅を贈与すれば相続税の課税対象から除外できますし、相続以後の配偶者の居住場所も確保できるため、相続対策としても活用できます。

生前贈与する際に注意すべきポイント

不動産を生前贈与する際は、次の3点に注意してください。

相続開始前7年内の贈与は相続税に加算しなければならない

贈与税の110万円非課税控除は毎年利用できるため、不動産を110万円以内に収まるよう分割して贈与することで、贈与税がかからないように渡すことも可能です。
しかし相続開始前7年以内(※2)に被相続人から相続人へ贈与した財産は、相続税の計算に加算しなければなりませんので、相続開始直前に贈与しても節税効果は見込めません。

ただし、贈与税の配偶者控除を適用した場合については、相続開始前7年以内の贈与加算の対象から除かれますので、相続開始直前でも活用する価値はあります。

※2 令和5年度税制改正により生前贈与加算が3年から7年となりました。
令和6年の贈与から影響を受けることになり、令和13年の贈与から7年以内の加算の対象となります。ただし、以前に比べ4年の延長がされているので、延長された4年間に受けた贈与は、合計100万円まで相続税が課税されません。

不動産取得税・登録免許税が発生する

不動産の名義変更を行う場合、贈与税が発生しない場合でも、不動産取得税および登録免許税の課税対象となります。
相続により名義変更であれば不動産取得税はかかりませんが、贈与による名義変更の際は課税対象です。
また登録免許税の税率は相続登記より贈与登記の方が高いため、相続税と贈与税が非課税の場合、生前贈与により不動産を渡した方が税負担は重くなります。

相続時に遺留分侵害額請求されるリスクがある

特定の相続人へ財産を渡し過ぎてしまうと、他の相続人から遺留分侵害額請求権を行使される可能性があります。
遺留分侵害額請求権とは、遺留分に相当する財産を取得できなかったことに対して請求する権利をいい、請求を受けた相続人は遺留分を侵害した額を金銭で支払うことになります。
遺留分侵害額請求は生前贈与も対象となりますので、保有財産の大部分が贈与する不動産の場合、遺留分侵害額請求されることも想定してください。

まとめ

基礎控除額や税率を比較した場合、贈与税より相続税の方が節税できるケースは多く、小規模宅地等の特例などを用いれば、税負担を最小限に抑えることが可能です。
一方で、不動産を特定の相続人へ渡したいなどの目的がある場合、生前贈与することも選択肢に入ります。
なお相続税・贈与税は連動した税金であり、相続・贈与した時点の法律により税金計算を行います。
そのため不動産を渡す際は、相続税(贈与税)専門の税理士へご相談していただき、最新税制および利用できる特例を確認した上で対策を講じてください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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