土地売却後に確定申告は必要?不動産売却の流れや手続き方法・必要書類を税理士が解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

【執筆者:税理士・藤井幹久】

土地を売却した場合には、原則として確定申告の手続きをしなければいけません。

しかし売却状況によっては申告手続きが不要になることもあるので、税金の計算方法を正しく理解する必要があります。

本記事では、土地を売却した際にかかる税金と、確定申告の手続き方法について解説します。

確定申告の必要性と土地売却した際に発生する税金

確定申告は、年間の所得を合計して納税額を計算するための制度です。

学生や専業主婦(夫)など、所得が無い人は確定申告は不要ですが、自営業や不動産を売却するなど、所得がある方は原則として確定申告の手続きをしなければなりません。

関連記事:土地売却の流れと注意点とは?知っておきたい費用や税金について解説

確定申告が必要になるケース

確定申告が必要になる人は、納税する所得税がある人です。

所得税は1年の収入を10種類の所得に分類し、所得の種類ごとに所得金額を算出します。

所得金額に税率を乗したものが所得税となるため、所得金額がゼロの人が納める所得税はありません。

所得の種類

  • 事業所得
  • 不動産所得
  • 利子所得
  • 配当所得
  • 給与所得
  • 雑所得
  • 譲渡所得
  • 一時所得
  • 山林所得
  • 退職所得

所得税の計算方法

所得税の計算方法は、『総合課税方式』と『分離課税方式』の2種類あり、所得の種類によって適用される課税方式は異なります。

総合課税方式総合課税方式に該当する所得を合計し、その合計金額に対して税率を乗じる計算方法です。

税率は所得金額に応じて上がるため、所得が多い人ほど課される税率は高くなります。

分離課税方式対象の所得の種類ごとに税金の計算をする方法です。

税率は所得の種類ごとに設定されており、税率が一定のものや所有期間によって税率が変わる所得もあります。

確定申告では、総合課税方式と分離課税方式で算出された所得税を合計し、納税額を確定させます。

そのため給料に対する所得税と、不動産売却に対する譲渡所得税を別々に申告することはできません。

不動産の売却利益は譲渡所得税の対象

不動産を売却した場合は譲渡所得の対象となり、譲渡所得に対する税金を一般的には『譲渡所得税』と呼ぶことが多いです。

譲渡所得は売却資産によって適用する課税方式は異なり、不動産を売却した際は分離課税方式で納税額を計算します。

所得区分の一つに不動産所得がありますが、こちらは不動産賃貸業による収入を得た場合に対象となる所得なので、区分誤りにご注意ください。

不動産譲渡所得の特徴は、所得金額ではなく、売却した不動産の所有期間に応じて税率が変わる点です。

所有期間は、売却した年の1月1日時点での所有期間が5年を超えるかで判断します。

売却日時点で所有期間が5年を超えていても、その年の1月1日の所有期間が5年以下であれば、短期譲渡所得の対象となりますので注意してください。

不動産譲渡所得の税率

所有期間 所得税(※) 地方税 合計(※)
短期譲渡所得 5年以下 30.63% 9% 39.63%
長期譲渡所得 5年超 15.315% 5% 20.315%

※復興特別所得税を含む

不動産を売却しても確定申告が不要になるケース

不動産を売却した際は原則として確定申告が必要となりますが、「譲渡所得税」は売却利益に対して課される税金なので、不動産を売却して赤字となれば譲渡所得税は発生しないため、不動産売却についての申告は不要となります。

したがって、不動産を売却したら最初に売却利益が発生するかを確認し、利益が見込まれる場合は売却利益を具体的に計算します。

確定申告における譲渡所得税の計算の流れ

確定申告の有無や、納める譲渡所得税を算出するためには、売却した不動産の利益がどのくらいになるかを計算する必要がありますので、計算方法について解説します。

譲渡所得の計算方法

譲渡所得は、次の計算式により算出します。

譲渡所得税の計算式収入金額 -(取得費 + 譲渡費用)- 特別控除額 = 譲渡所得金額

収入金額

収入金額とは、不動産を売却した際の代金です。

株式や不動産など、お金以外の物で不動産を売った場合、売却により得た物の時価を収入金額とします。

取得費

取得費とは、基本的に売却不動産を購入した当時の代金です。

土地の売却代金よりも購入代金の方が高い場合、売却損失(赤字)となるため、譲渡所得税は発生しません。

相続した土地は、購入代金がわからないこともあります。

そのような取得費不明の場合には、売却金額の5%を概算取得費として計上することが認められています。

ただ概算取得費は売却金額の5%なので、大部分は売却利益として課税対象となりますので、購入した際の金額が確認できる書類は可能な限り集めてください。

なお売却不動産に建物が含まれている場合、購入時から売却時点までの年数に応じて減価償却費相当額を取得費の計算上差し引かなければいけません。

譲渡費用

譲渡費用とは、売却する際に直接要した支出です。

仲介手数料や契約書に貼った印紙代などは譲渡費用として認められます。

また売却するために土地を測量したり、建物を取り壊した際に支払った金額も譲渡費用の対象です。

ただ支払ったのが売却よりもかなり前だった場合など、売却のために直接要した費用と認められなければ、経費に含めることはできませんのでご注意ください。

特別控除額

特別控除額とは、特例制度を適用した際に差し引くことができる控除額です。

特別控除額の上限は年間5,000万円であり、特例ごとの譲渡益を限度として控除します。

特別控除額のある特例制度の種類

  1. 不動産が収用された際の特例(5,000万円の特別控除)
  2. マイホームを売却した際の特例(3,000万円の特別控除)
  3. 特定土地区画整理事業により売却した際の特例(2,000万円の特別控除)
  4. 特定住宅地造成事業により売却した際の特例(1,500万円の特別控除)
  5. 平成21年及び平成22年に取得した土地を売却した際の特例(1,000万円の特別控除)
  6. 農地を売却した際の特例(800万円の特別控除)
  7. 低未利用土地等を売却した際の特例(100万円の特別控除)

複数の特例制度を適用できる場合は、上記の1.から順番に適用します。

各特例制度にはそれぞれ適用要件があり、要件を1つでも満たさないと特例は受けられません。

なお上記以外にも譲渡所得の特例は数多く存在し、売却する土地の種類や用途に応じて適用できる特例制度は異なります。

確定申告の手順と手続きの流れ

確定申告期間は決まっており、期限を過ぎるとペナルティの対象です。

また特例制度は期限内申告が要件となっているものも多いため、確定申告期間中に手続きする必要があります。

売却した直後に申告手続きはできない

所得税の確定申告期間は、翌年2月16日から3月15日と決まっており、それ以前に申告手続きをすることは原則できません。

令和3年2月に不動産を売却した場合、確定申告期間は翌年の令和4年2月16日から3月15日の間です。

また納税期限は申告期限と同日で、納付書は住民税のように送られてきませんので、税務署や銀行の窓口などで自主的に納める必要があります。

譲渡所得の内訳書に売却した内容を記載する

譲渡所得の申告をする場合は、税務署が用意している「譲渡所得の内訳書」に収入金額や取得費などの明細を記載します。

譲渡所得の金額は確定申告書にも記載し、申告書で納める譲渡所得税を計算します。

確定申告書には『A』と『B』があり、不動産の譲渡所得で使用する確定申告書は『B』です。

不動産譲渡所得の内容は、確定申告書Bの第3表に記載します。

第1表にある譲渡所得は、金地金など総合課税方式で計算する譲渡所得を記載する欄なので、記載場所を間違えないように注意してください。

他の所得についても確定申告書に記載する

不動産売却以外の所得がある場合は、確定申告に内容を記載しなければいけません。

記載漏れがあると所得税の総額が変わり、納税額が違えば税務署から指摘を受けることになります。

また年末調整により所得控除(配偶者控除や扶養控除など)や、税額控除(ローン控除など)を適用している方は、それらの控除の記載漏れにも要注意です。

確定申告書に記載した内容がその年の最終的な金額となるため、年末調整で適用した控除も忘れずに記載してください。

確定申告に添付する必要書類

確定申告に添付する書類には、添付が任意の書類と添付義務のある書類の2種類存在します。

任意の添付書類は、申告書に添付しなくても法的に問題はありません。

ただ添付書類がないと、税務署は申告書の内容を詳細に確認できないため、税務調査に発展することもあるので、基本的には添付することが推奨されています。

添付義務のある書類は、法律で提出が求められている書類です。

特例制度を適用する場合、添付義務のある書類がいくつか存在し、添付がないと特例を適用できませんのでご注意ください。

確定申告書に添付する書類

書類の種類 入手場所 準備する際に注意すべきポイント
確定申告書B 税務署 確定申告書Aでは譲渡所得税を計算できません。
譲渡所得の内訳書 税務署 特例を適用する際は必ず作成してください。
売却時の売買契約書の写し 自分で用意 売却代金・売却年月日などが確認できる部分をコピーしてください。
売却時の仲介手数料の領収書の写し 自分で用意 紛失した際は仲介業者に連絡してコピーを取得してください。
売却時の経費の領収書の写し 自分で用意 添付がないと経費として認められない可能性があります。
購入時の契約書の写し 自分で用意 契約書が無い場合は、領収書でも代用可能です。
購入時の領収書の写し 自分で用意 基本的に購入時の登録免許税や不動産取得税も取得費の対象です。
給与の源泉徴収票 自分で用意 確定申告書への添付義務は無くなりましたが、申告書を作成するために必要です。

特例を適用する際に必要となる主な書類

書類の種類 入手場所
登記事項証明書 お近くの法務局やインターネットで取得できます。
住民票 現在住んでいる場所の市区町村で取得します。
申告書にマイナンバーを記載している場合、住民票の添付が不要になるケースもあります。
住民票の除票 以前住んでいた市区町村で取得することになります。

※特例の種類によっては、上記以外にも添付が必要となる書類もあります。

まとめ

土地を売却した場合、基本的に売却代金よりも購入代金の方が高ければ赤字となり、譲渡所得税は発生しません。

しかし売却利益が発生した際は、翌年2月16日から3月15日までの間に確定申告書の提出・納税が必要となり、期限を過ぎると加算税・延滞税といったペナルティーが発生します。

取得費や譲渡費用は少しでも計上した方が節税になりますが、経費を否認されれば追徴課税の対象となりますので、経費にできる支出の判断も重要です。

なお、不動産の譲渡所得の特例制度は数多く存在しますが、専門家ではないと適用できる特例の種類を把握するのは困難です。

特例を適用することで数百万円も納税額を節税できるケースもありますので、不動産を売却した際は1度、不動産を専門とする税理士にご相談することをオススメします。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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