賃貸アパート・マンションの売却時にかかる税金と活用可能な特例制度を税理士が解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

【執筆者:税理士・藤井幹久】

賃貸不動産を売却した際、対象となる税金は譲渡税(不動産の売却による所得税と住民税の総称。以下同じ。)です。

譲渡税は売却利益が発生した場合の税金なので、不動産を売却したら税務上の利益が出ているのかを確認する必要があります。

また賃貸物件を売却したケースと自宅を売却したケースでは、計算過程や適用できる特例制度が異なる部分もありますのでご確認ください。

賃貸不動産を売却する際にかかる税金とは?

まずは、譲渡所得、譲渡所得税の計算方法をそれぞれ見ていきましょう。

譲渡所得の計算方法

売却利益は、不動産の売却代金から取得費(購入金額などの原価)および、仲介手数料など売却する際に支払った譲渡費用を控除した金額をいいます。

譲渡税は売却利益に税率を乗じて算出するので、売却損失が発生した場合、税金はかかりません。

譲渡税の計算式売却金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除=売却利益(譲渡所得)
譲渡所得×税率=譲渡税

譲渡所得税は、売却利益(譲渡所得)に税率を乗じて算出するため、売却損失が発生した場合には税金はかかりません。

譲渡所得税の計算方法

譲渡所得税の計算式譲渡所得×税率=譲渡所得税

譲渡所得税の税率

譲渡税は、所有期間に応じて「短期譲渡所得」と「長期譲渡所得」の税率を適用して税額を算出します。

  • 短期譲渡所得:売却した年の1月1日時点の所有期間が5年以下の場合が対象
  • 長期譲渡所得:上記の所有期間が5年超の不動産を売却したケースが対象

所有期間は売却した年の1月1日時点で判断しますので、たとえ年の途中で所有期間が5年を超える場合でも短期譲渡所得に該当するのでご注意ください。

一方で、相続により取得した賃貸アパートなどを売却した場合、先代の所有期間も引き継ぐため、合計の所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得です。

なお譲渡税の税率は固定であり、売却利益の大小で税率が変わることはありません。

短期譲渡所得の方が長期譲渡所得よりも税率が高いため、支払う税金を抑えるために長期譲渡所得に該当するまで売却を待つ手段もあります。

所得区分 所有期間 所得税(※) 地方税 合計(※)
短期譲渡所得 5年以下 30.63% 9% 39.63%
長期譲渡所得 5年超 15.315% 5% 20.315%

※復興特別所得税を含む

譲渡所得税について詳しく知りたい方は、「譲渡所得税とは?計算方法や節税ポイントを不動産税理士が徹底解説」を御覧ください。

賃貸不動産の売却時に注意すべきポイント

不動産を売却した場合の譲渡税の計算方法は、不動産の種類によって変わることは基本的にありません。

しかし事業用と非事業用の不動産では、一部計算方法が異なる部分や、賃貸不動産を売却した際に注意すべきポイントがありますのでご紹介します。

賃貸用建物の取得費の金額は基本的に確定申告書の数字と一致する

売却不動産に建物がある場合、購入金額から減価償却費相当額を控除した額が取得費となります。

自宅など非事業用資産を売却した際の減価償却費は、譲渡所得の取得費を出すためだけの計算式に基づき算出します。

それに対し売却資産が賃貸不動産の場合、毎年確定申告で減価償却費の計算を行っているため、確定申告書の収支内訳書(青色決算書)に記載してある残存価額が、譲渡所得の取得費と一致します。

事業用資産は、自宅などの非事業用資産よりも償却期間が短いため、同じ金額・構造・築年数の建物の場合、賃貸不動産の取得費の金額の方が小さくなります。

譲渡所得と不動産所得は別の所得区分

不動産賃貸収入は不動産所得、賃貸不動産を売却した場合は譲渡所得と、同じ不動産から得た収入でも、対象となる所得区分は異なります。

不動産所得と譲渡所得では適用される税率が異なりますし、不動産に対しての経費はどちらか一方の費用としてしか計上できません。

たとえば不動産を売却するために借主へ支払った立ち退き料は、不動産所得ではなく譲渡所得の経費として計上します。

また不動産所得の損失は、給与所得などと損益通算できますが、売却損失については他の所得と損益通算はできません。

不動産を同年中に複数売却した場合については、売却利益と売却損失を相殺することは可能なので、損益が発生する不動産を処分する際は同じタイミングで売却した方が節税効果を得られます。

賃貸アパート・マンションの買換えに利用できる特例制度

特定事業用資産の買換え特例

賃貸アパート・マンションを売却して新しく事業用資産を購入した場合、一定の要件を満たすと、譲渡益の一部に対する課税を将来に繰り延べることができる「特定事業用資産の買換え特例」を利用できます。

売却金額よりも買換金額の方が多い場合、売却金額に20%の割合(※)を乗じた額を収入金額として譲渡所得の計算を行います。

したがって、最大で80%の譲渡税を将来に繰り延べることのできる(先送りにできる)制度です。

※特定の地域から地域への買換する際は、20%の課税割合が25%または30%になる場合もあります。

特定事業用資産の買換え特例の計算式

売却金額と買換金額の大小比較 譲渡所得の計算式
売却金額≦買換金額
  • 収入金額=売却金額×0.2
  • 必要経費=(売却資産の取得費+譲渡費用)×0.2
  • 譲渡所得=収入金額-必要経費
売却金額>買換金額
  • 収入金額=売却金額-買換金額×0.8
  • 必要経費=(売却資産の取得費+譲渡費用)×(収入金額÷売却金額)
  • 譲渡所得=収入金額-必要経費

※課税割合が20%の場合

特定事業用資産の買換えの特例が適用できるケースは、特定の事業用の不動産を売却したタイミングで、一定期間内に特定の不動産を購入し、かつ取得した日から1年以内にその買換資産を事業用として利用した場合です。

売却資産と買換資産には組み合わせがあり、現在特例の適用対象となる組み合わせは多数あり、それぞれ適用要件が異なります。

代表的な組み合わせ

売却した年の1月1日時点で所有期間が10年を超える不動産を売却し、国内にある土地等や建物を取得するケースです。

売却時点で事業用として使用していない不動産や、特例を適用する目的で一時的に事業として使用した不動産を売却した際は、特定事業用資産の買換え特例は適用できません。

また購入する土地等には300㎡以上の面積要件があり、事務所や事業者などの特定施設の敷地として利用することが条件です。

そのため事業用として購入した土地であっても、特定施設がない物品置場や駐車場として使用する場合には、特例を適用することはできません。

売却資産と買換資産の組み合わせにより、適用要件は変わりますので、買換え特例を適用する際は、売却前に不動産を専門とする税理士へ相談することをオススメします。

なお特例を適用する際は確定申告が必要であり、申告時期は売却した翌年2月16日から3月15日の1か月間です。

申告期限を過ぎると特例が適用できなくなってしまうので、特例要件の確認と共に、申告で必要な書類等も事前に揃える必要があります。

関連記事:不動産売却にかかる税金はどのくらい?計算方法や節税対策まで不動産税理士が徹底解説

まとめ

不動産の売却にかかる譲渡税の計算の流れは、不動産の種類にかかわらず基本的には同じです。

ただ減価償却費の計算は事業用と非事業用の不動産では計算が異なりますし、事業用資産を買い換える場合には、特定事業用資産の買換え特例の適用も選択肢となります。

不動産の売却時には、事前に売却利益が発生するかどうかを不動産に強い税理士に相談して、買換え特例の適用も含めた節税対策をご検討ください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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