非居住者の不動産売却・不動産経営に関係する不動産税務について

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

【執筆者:税理士・藤井幹久】

非居住者とは?非居住者の定義

日本の所得税は、その人が居住者なのか非居住者なのかによって、課税対象となる所得の範囲に違いがあります。

非居住者とは?

非居住者とは、居住者以外の個人のことです。
したがって、非居住者にあたるかどうかを判定するには、まず居住者の定義を知る必要があります。

居住者とは?

居住者とは、次のいずれかにあてはまる個人です。

  • 国内に「住所」を有する個人
  • 国内に現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人

したがって、上記にあてはまらない個人はすべて「非居住者」となります。
特に海外に長期滞在をしており、日本国内に不動産を保持している方などが該当します。

非居住者に日本の所得税がかかる範囲

非居住者にあたる場合、日本の税がかかる所得は、「国内源泉所得」に限られます。
日本にある不動産の売却や賃貸で発生した収入は、いずれもこの「国内源泉所得」にあたるため、非居住者であっても、日本の所得税を納める必要があります。

参考:国税庁:国内源泉所得について

非居住者が不動産売却・賃貸する場合に発生する税金

非居住者に支払われる日本の不動産の売却収入や家賃収入については、支払いをする購入者や借主によって、一定の税率で、所得税等の源泉徴収が行われます。

ただし、源泉徴収を不要とする下記の要件をすべて満たす場合、源泉徴収は行われません。

購入者・借主の源泉徴収義務と判定について

不動産の売却収入 不動産の家賃収入
源泉徴収義務者 不動産の購入者 不動産の借主
源泉徴収を不要とする場合
  • 購入者が個人であること
  • 自己居住用または親族居住用住宅の購入であること
  • 対価が1億円以下であること
  • 借主が個人であること
  • 居住用または親族居住用住宅の賃貸であること

非居住者の不動産収入から源泉徴収される税額

  • 売却収入から源泉徴収される税額は「売却代金×10.21%」
  • 家賃収入から源泉徴収される税額は「家賃×20.42%」

となります。

非居住者の手取り金額について

したがって、非居住者の手取りは、上記の税額を差し引いた残額になります。
税率が細かい理由は、所得税だけでなく復興特別所得税(震災の復興支援のための税金。所得税額の2.1%)が同時に徴収されるからです。

【(参考)源泉徴収される税額と消費税の関係】

消費税が含まれる場合、原則的には、消費税込みの売却代金・家賃収入から源泉徴収税額を計算します。

ただし、請求書上で消費税の金額を区別して表示している場合は、税抜きの売却代金・家賃から源泉徴収税額を計算してよいとされています。

たとえば、「1,100万円」と記載された不動産の売却代金からは「112万3,100円」を源泉徴収するのですが、「建物価格1,000万円、消費税等100万円」のように区別されているときは、これを「102万1,000円」の源泉徴収にすることができます。

手取りが多くなるのは、後者です。

なお、土地の売却代金、住宅の家賃、土地のみを賃貸するときの地代など、消費税がそもそもかからない取引があることに注意しなければなりません。

非居住者の確定申告について

日本の不動産から売却収入や賃貸収入を得た非居住者は、源泉徴収の有無にかかわらず、それぞれ所得の金額から税額を計算し、税務署に確定申告を行って、所得税等を納める必要があります。

売却収入の所得の金額・税額

売却収入から生じる所得は、「譲渡所得」になります。

不動産の譲渡所得は、下記の方法で計算した額に所得税率をかけて、納税額を計算します。

  • 不動産の譲渡所得=売却収入-(取得費+譲渡費用)
  • 所得税額=(不動産の譲渡所得-所得控除)×税率(15%または30%)
  • 所得税額-源泉徴収税額=納税額

不動産の譲渡所得

不動産の譲渡所得は「分離課税」といって、たとえば給与や家賃収入など他の種類の所得があってもそれとは合算せず、独自の税率で税額を計算します。

なぜなら、他の所得と合算する「総合課税」にしてしまうと、超過累進税率が適用され、高額な不動産の売却収入に対し、税負担が重くなりすぎるからです。

所得控除

非居住者の場合、雑損控除、寄附金控除、基礎控除に限り、所得控除を適用することができます。

無条件で受けられるのは基礎控除の48万円ですが、令和2年から、所得が2,500万円を超えると控除が受けられなくなりました。

なお、総合課税の所得がある場合は、そちらから優先して所得控除を差し引きます。

税率

売却した不動産の保有期間で、税率が変わります。

売却した年の1月1日時点での保有期間 税率
5年以下 30.63%(所得税30%+復興特別所得税)
5年を超える 15.315%(所得税15%+復興特別所得税)

賃貸収入の所得の金額・税額

不動産の家賃収入から生じる所得は、「不動産所得」という総合課税の所得になります。

  • 不動産所得=総収入金額-必要経費
  • 所得税額=(不動産所得-所得控除)×税率
  • 納税額=所得税額-源泉徴収税額

不動産所得は、非居住者であっても青色申告をすることで、税負担を抑えることができます。

所得控除の範囲は、売却収入の内容を参考にしてください。

税率

5%~45%(復興特別所得税を含めると5.105%~45.945%)の超過累進税率となります。

関連記事:不動産所得の確定申告は必要?正しい方法を不動産税理士が解説

まとめ

日本における確定申告は、翌年2月16日から3月15日までに、税務署に確定申告書を提出する方法で行います。

納税も、原則、3月15日までに行います。(納税方法によって若干変わります)

確定した税額よりも源泉徴収された税額が多ければ、差額の還付を受けることができますが、このときは上記の期限によらず、翌年から5年以内に申告をする必要があります。

確定申告や納税・還付の手続きは、日本で「納税管理人」を定め、その人に代わりに行ってもらいます。

「納税管理人」は、日本に住んでいるご家族や税理士などを選ぶことが一般的です。個人でも法人でも構いません。

「納税管理人」を選ぶときは、「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を非居住者の納税地を管轄する税務署に提出します。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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